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AIロボットを本番に入れたあと、人の作業へ「戻す」判断と、人の備えを「畳む」判断は、別に決める

フィジカルAI(Physical AI)

架空の場面です。AIで動くロボットを本番のラインに入れて、しばらく経ちました。朝の打ち合わせで、二つの声が出ます。一つは「昨夜はロボットが止まりがちだった。今日は人の手でやるか」。もう一つは「人の作業用の手順書と治具が、まだ棚の一角を占めている。そろそろ片づけてよいのではないか」。どちらも「人の作業をどうするか」の話に聞こえるため、同じ会議で、同じ基準のまま一度に決めようとすると、話が噛み合わなくなることがあります。

この二つは、判断の向きも、急ぐ度合いも、決める人も違います。この記事は、工場長や生産技術の責任者が、ロボットを本番に入れる前後に、人の作業を「残す」「戻す」「畳む」の三つの状態に分けて、それぞれの条件を書面にするための整理です。

扱わないことがあります。戻す・畳むの数値の基準(回数、時間、稼働率、期間)、人員の削減、配置転換、雇用に関わる判断と労務上の適否、安全の適否の断定です。これらは、自社の品質・安全・生産の条件に照らして、安全管理者、メーカー、社内の労務の担当、専門家と決めてください。

対象は、ロボットの作業と人の作業という、物理的な作業の切り替えに限ります。事務の手順でAIと旧手順を並べて動かす期間の考え方は、別の記事で扱っています。

三つの状態を、先に言葉で分ける

この記事で「戻す」とは、ロボットが担っている作業を、一時的に人の作業へ切り替えることを指します。「畳む」とは、人の側の備え(手順書、治具や道具、その作業ができる人、作業の場所)をやめる、または規模を縮めることを指します。「残す」は、その備えをすぐ使える状態に保っておくことです。

項目残す戻す畳む
何をするか人の作業をすぐ実行できる状態を保つロボットの作業を、人の作業に切り替える人の側の備えをやめる、または縮める
判断する場面備えの置き場所や版を見直すとき異常の疑いや、止める必要が生じたその場材料をそろえて、区切りごとに
判断する人の例生産技術、現場の保全担当その時間帯の現場責任者。安全に関わるときは安全管理者の確認も工場長を中心に、生産技術、品質、安全。人員に関わる点は労務の担当
先に書面にすること何を、どの版で、どこに置き、誰が維持するか発動の条件、連絡先、戻した先の手順、ロボットに返す条件備えごとの判断材料、判断者、見直しの区切り、畳んだあとの代わりの動き

表の「判断する人の例」は、一例です。工場の組織に合わせて書き換えてください。

ここでの「戻す」は、モデルや設定を以前の版に戻すこととも別です。版を戻す手段は、更新を受け入れるときの条件として決める事柄で、運用体制の記事や検収の前に契約で決めておくことの記事で扱っています。ロボットを前の版に戻しても、そのあいだに人が担う作業が要ることは変わりません。

戻す条件が書かれていないと、畳む判断は「たぶん大丈夫」になる

二つの判断はつながっています。戻す条件が「調子が悪いとき」としか書かれていないと、条件に当たるかどうかの判断が人によって割れ、戻したかどうかの記録も残りません。記録がなければ、畳む判断のときに「戻したことがあるか」「戻した先で作業は回ったか」を確かめる材料がなく、「最近は問題なさそうだ」という印象で決めることになります。

逆の向きもあります。人の備えを畳んだあとで戻す条件に当たると、戻した先の作業を回す手順書も、人も、場所もない状態になります。戻す条件は、畳む判断に使う材料を作る役目と、畳んだあとに何を代わりにするかを決める役目の、両方を持ちます。

止まった日から、備えを畳む日まで、順に確かめること

次の順序は、作成者による整理の提案です。決まった手順ではありません。自社の条件に合わせて書き換えてください。

戻す条件に当たるか

  • 当たる:戻す。判断するのは、事前に決めた人(その時間帯の現場責任者など)で、その場で相談の連鎖を作らない
  • 当たるか分からない:分からないときの既定の動きを、先に決めておく。「続ける」を既定にするなら、その理由と、続けてよいとする人を書いておく
  • 当たらない:続ける。ただし、条件の近くまで来た状態が見えたときの記録は残す。畳む判断の材料になる

戻す条件に書く事象の例は、ロボットの停止が続く、つかみ損ねや位置ずれが増える、外部との接続が切れる、安全装置が作動する、設備側に異常が出る、などです。どれが条件に当たるかの線は、この記事では引きません。接続が切れたときの動きは外部接続の許可の記事でも、1項目として扱っています。

安全装置が作動したあとの復帰や再起動は、人の作業へ戻すかどうかの判断より先に、安全管理者やメーカーと決めた安全の手順が優先します。人の作業へ戻すことは、安全装置や安全の手順の代わりになるものではありません。

戻した先で、人の作業は回るか

戻す条件に当たっても、戻した先で作業を回せなければ、戻す判断は実行できません。次の五つを確かめます。

  • 手順書:ロボットを入れたあとの工程に合った版か。ロボットの導入で変えた順序や検査の位置が、人の作業の手順書に反映されているか
  • 治具と道具:人の作業で使っていたものが、ロボット用に置き換わっていないか。置き場所と、使える状態が保たれているか
  • 人:その作業ができる人が、その時間帯にいるか。ロボットが担うようになってから、その作業から離れている人はいないか
  • 場所と動線:ロボットや周辺機器が占めている場所に、人が入って作業できるか。人が入る場所がロボットの可動範囲と重なるなら、次の項も確かめる
  • 品質の確認:戻した作業の品質を確かめる方法と、確かめる人が決まっているか

答えは二つに分かれます。回るなら、戻します。回らないなら、戻せない状態です。そのときの動き(ラインを止める、量を絞る、別のラインに回す)を誰が決めるかも、先に書いておきます。戻せない状態が見つかるのは、備えを畳みすぎる前であることが望ましいため、この確認は、畳む判断の前にも行います。

戻す作業で、人がロボットの可動範囲に入るとき

入らないなら、次へ進みます。入るなら、止まって、どの条文とどの手順が関わるかを、安全管理者と確かめます。

労働安全衛生規則には、産業用ロボットの可動範囲に関わる条文が、作業や運転の場面ごとに分けて置かれています。この記事が原文で確認したのは、次の三つです。

  • 第150条の3:可動範囲内で、ロボットの動作の順序や位置、速度を設定、変更、確認する教示等の作業を行うときの措置
  • 第150条の4:ロボットを運転する場合に、ロボットに接触して労働者に危険が生ずるおそれのあるときの、さく又は囲いを設ける等の措置。教示等のために運転する場合と、運転中に第150条の5の作業を行わなければならない場合は、この条の対象から除かれています
  • 第150条の5:可動範囲内で、検査、修理、調整(教示等に当たるものを除く)、掃除、給油、またはこれらの結果の確認の作業を行うときの措置

戻す作業そのもの、つまりロボットが担っていた生産の作業を人が引き受けることが、このどれに当たるかは、この記事では判断しません。第150条の5が挙げているのは、検査、修理、調整、掃除、給油と、それらの結果の確認の作業で、戻した先で人が行う通常の生産の作業が、この列挙に入るとは限りません。ロボットを運転したまま、人が接触するおそれのある位置で作業する形になるなら、第150条の4が関わるかどうかも確かめる必要があります。どの条文が関わるかは、作業の中身とロボットの運転の状態で変わります。安全管理者、メーカー、所轄の労働基準監督署に確認してください。

そのうえで、第150条の5の中身です。事業者は、産業用ロボットの可動範囲内で、先の列挙にある作業を行うときは、運転を停止し、その間、起動スイッチに錠をかけて作業中の表示をするなど、作業をしている人以外が起動スイッチを操作できないようにする措置を講じなければならない、と定められています。ただし書きがあり、運転中に作業をしなければならない場合に、規程を定めて作業させること、異常時に直ちに運転を停止できるようにする措置、運転状態を切り替えるスイッチ等に作業中の表示をするなどの措置の三つを講じたときは、この限りでないとされています。

この条文の「運転を停止する」について、厚生労働省の通達の第150条の5関係の記述(昭和58年6月28日付基発第339号の本文。平成25年12月24日付の基発1224第2号で一部改正された版)は、一次電源を切る、起動スイッチを切るなど、人が起動操作をしない限りロボットが静止し続ける状態にすることとしています。プログラムで静止の維持が命令されている状態や、関連する機械からの信号待ちの状態は、静止していても「運転を停止」しているとはいえない、とも書かれています。これは第150条の5の作業についての説明で、戻す作業一般に当てはまる定義として読むものではありません。

AIで動くロボットが画面に「待機」や「一時停止」と出していても、通達が第150条の5について述べる運転の停止に当たらないことがあります。人が可動範囲に入る手順に「止まっているから入ってよい」と書かないために、人が入る前にロボットをどの状態にし、誰が確かめ、どう表示するかを、メーカーと安全管理者に確かめて、手順に書いておきます。

条文でいう産業用ロボットは、マニプレータと記憶装置を持ち、記憶装置の情報に基づいてマニプレータの動作を自動的に行える機械で、研究開発中のものと、厚生労働大臣が定めるものは除かれています。自社のロボットがこれに当たるか、当たるとして今の運用で何が要るかは、この記事では判断しません。安全管理者、メーカー、所轄の労働基準監督署に確認してください。可動範囲内での作業をする人の特別教育の読み方は、特別教育の記事で扱っています。安全の担当と前提条件は、安全の記事にあります。

戻したあと、ロボットに返すとき

「戻す」は一時的な切り替えです。返す条件を決めておかないと、戻した状態が続き、いつのまにか人の作業が本体になることがあります。

  • 原因の切り分けが済んだか。切り分けを現場で持つ範囲と、開発側に戻す範囲は、運用体制の記事の分担表で整理しています
  • ロボットに返す前に、何を確かめるか。確かめる人は誰か
  • 返したあと、しばらく人の備えをそのまま置くか

備えを畳んでよいか、備えごとに問う

畳む判断は、備えごとに行います。まとめて「人の作業をやめる」と決めると、材料が足りません。備えごとに、次の五つの問いに答えます。

  1. 戻す条件は、この間に発動したか。発動したなら、戻した先で作業は回ったか
  2. ロボット側の変更(更新、品種の追加、レイアウトの変更)の予定はあるか。変更の前後は、備えを残す期間として扱うか
  3. 畳んだあと、同じ備えを再び用意するのに何が要るか。かかる時間の見込みはどうか
  4. 備えを維持する負担を、誰が負っているか
  5. 畳んだあとに戻す条件が発動したとき、代わりの動き(止める、量を絞る、外に頼む)は決まっているか

答えは、備えごとに「残す」「縮めて残す」「畳む」のどれかに置きます。「縮めて残す」は、品種を絞る、時間帯を絞る、一部のラインだけにする、といった形です。

備え畳む前に確かめること畳むなら、最低限残すもの
手順書戻したときに手順書どおりに回ったか。ロボット側の変更に合わせて更新されてきたか最新版の保管場所。畳むのは「すぐ使える状態」で、記録を消すことではない
治具と道具戻す作業で使ったか。ほかの用途に転用する予定はないか保管場所、仕様や図面、点検を担当する人
作業できる人戻す作業を担当できる人が、どの時間帯にいるか担当できる人の一覧と、作業に触れる機会。人員や配置の判断は、労務の担当と進める
場所と動線戻したとき、人が入って作業できる空きがあるか空けておく場所の範囲、または代わりの場所

この表も、一例です。表のなかの「人員や配置の判断」は、この記事の対象外です。

判断する人と、見直す区切りを書いておく

戻す判断は、早く、現場で下します。畳む判断は、材料をそろえて、複数の部門で下します。同じ人が両方を担う工場もありますが、その場合も、書面では別の判断として書き分けます。

見直す区切りは、数字ではなく、きっかけで書くこともできます。たとえば、ロボット側の変更のたび、戻す条件が発動したあと、定例の会議の区切りです。頻度を数字で決めること自体は否定しませんが、その数字は自社の生産・品質・安全の条件から決めるもので、この記事は示しません。

先に書面にしておく項目

本番稼働の前に、次を書面にします。

  • 戻す条件:何を、誰が、どこで見て、どの状態になったら当たるとするか。数値の基準を置く場合は、自社の条件から、安全管理者や開発側と決める
  • 戻す判断をする人と、不在のときの代わりの人
  • 戻した先の手順書の版と置き場所、品質を確かめる方法
  • ロボットに返す条件と、返す前の確認をする人
  • 備えごとの現状(残す、縮めて残す、畳む)と、見直す区切り
  • 畳んだあとに戻す条件が発動したときの、代わりの動き

このうち、戻す事象の範囲や窓口は、開発側との取り決めにも関わります。取り決めの観点は、運用体制の記事と、検収の前に契約で決めておくことの記事にまとめています。

社内で決めきれないとき

WITHPROJECTSの公開ページ(フィジカルAIのPoC支援)は、PoCの前に決める条件の一つとして、PoC後の判断(進む、条件付きで進む、やり直す、やめる)の材料と、それを決める人を挙げています。本番稼働後に人の備えを残す・戻す・畳む判断の代行や、並行運用の管理は、公開ページに記載のある範囲ではないため、この記事では提供するとは述べません。公開ページは、フィジカルAIのPoC支援とフィジカルAI事業化・FDE支援にあります。

この記事は、個別の工場の戻す・畳む判断の適否を示すものではなく、安全や成果を保証するものでもありません。

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