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AIロボットを検収する前に、契約で決めておくこと:PoCの合否基準とは別の受け入れ条件

フィジカルAI(Physical AI)

PoCで基準を満たし、本番の発注に進み、納入の日が来る。そのとき、PoCの合否基準をそのまま検収の基準にしてよいのでしょうか。この記事の答えは、二つは別の判定だ、というものです。PoCの合否は「この先に進めるか」を決めるもの、検収は「納入されたものを受け取り、支払いに進んでよいか」を決めるものです。後者は、納入物の範囲、試験の条件、判定する人、合格しなかったときの扱い、納入後に学習や設定が変わったときの扱いまで、契約の前に書いておかないと、納入の日になって初めて話し合うことになります。

この記事では、契約の前に発注側が埋める「受け入れ条件シート」の項目を並べます。合格の値、金額、保証の期間は示しません。契約書の文言や法律の当てはめは、法務・専門家に確認してください。

PoCの合格と、納入時の受け入れは、別の判定である

検収の呼び方は、受入検査、検収試験、ユーザーテストなど、契約や現場によって異なります。この記事では、検収とは、納入物が契約で決めた条件を満たすかを発注側が確かめ、受け取るかどうかを決める手続きを指し、受け入れ条件とは、その判定に使う条件を契約の前に文章にしたものを指します。

比べる点PoCの合否基準納入時の受け入れ条件
判定の目的次の段階へ進むかどうかを決める納入物を受け取り、支払いに進んでよいかを決める
対象限られた範囲と条件で動かした試作や構成契約で定めた納入物一式(機器、ソフト、学習済みモデル、設定値、手順書など)
試験の条件PoCで想定した対象物と現場の変動契約で定めた対象物と、現場に据えた状態での条件
判定する人発注側と支援側があらかじめ決めた人契約で定めた判定者と、立会う人
合格しなかったときやり直す、条件を変える、やめる、を検討する是正、再試験、条件付きで受け取る、受け取らない、のどれにするかを契約で定めておく
結果の使われ方本番の設計と見積の前提になる引渡し、支払い、不具合の申出の起点を示す記録になる
変更があったとき通常は試験をやり直す変更の種類ごとに、受け入れ直す範囲を定めておく

PoCの結果は、受け入れ条件の材料になります。試験の条件、使った対象物、評価の方法は持ち越せます。一方、PoCで測っていないこと(現場に据えた状態での長い運転、段取り替え、現場の人による復旧、納入物の版の管理)は、受け入れ条件として新しく決める必要があります。PoCの合否基準そのものの決め方はPoC支援の記事に、シミュレーションで動いた結果を実機に移すときの読み方は実機で確かめる記事にあります。

条文と公的な資料が決めていること、決めていないこと

検収の中身を、条文や公的な資料が細かく定めているわけではありません。原文を確認した範囲で、何が書かれていて、何が書かれていないかを分けておきます。

民法の請負の規定

民法の請負の規定(e-Govの法令データで原文を確認)では、請負は、仕事の完成を約束し、その結果に対して報酬を支払うことを約束する契約とされています(第632条)。報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に支払うものとされています(第633条。物の引渡しを要しないときは別の規定を準用)。

引き渡された目的物が種類や品質の面で契約の内容に適合しない場合について、注文者が供した材料の性質や、与えた指図によって生じた不適合は、追完の請求、報酬の減額、損害賠償、契約の解除の理由にできないとされています。ただし、請負人がその材料や指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは別です(第636条)。また、注文者が不適合を知った時から一年以内に請負人へ通知しないと、追完の請求などができなくなるとされています(第637条第1項。引渡しの時に請負人が不適合を知り、または重大な過失で知らなかったときは適用しない旨が第2項にあります)。

ここから読み取れるのは、請負なら完成した目的物の引渡しと報酬の支払いが結び付くこと、発注側の指図や材料が不適合の整理に関わりうること、不適合の通知に期限があること、の三つです。一方、これらの条文に「検収」の語は出てきません。何を、どの条件で、どう数えて合格とするかは、条文ではなく契約の中身で決まります。この条文が当てはまる契約か(請負か、準委任か)、期間や責任を契約でどう定めるかは、契約書と法務で確認してください。

経済産業省の契約チェックリスト

経済産業省の「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」(令和7年2月)の完成義務の項(B-2-1)は、確認する点として、ベンダがアウトプットを完成する義務を負うか、負う場合にどのような完成条件(完成時期、検収条件など)が課されるか、ユーザのサービス利用目的に照らして許容できるか、を挙げています。完成義務を負わない場合でも、ベンダは善管注意義務を負うとも書かれています。

同じ資料は、準委任か請負かという契約の性質の区分は、当事者間に合意がない場合の補充的なルールにすぎないとし、ユーザがベンダに成果の内容や水準をどの程度求めるかが重要な論点になる場合が少なくない、としています。また、AIモデルそのものではなくAIシステムを開発する場合には、出力の不確実性を考慮した設計が求められ、ベンダが一定の担保責任を負うことが合理的な場面も考えられる、という整理も示されています。

ただし、この資料の対象は、AIサービスの利用や、ソフトウェア・データベース・システムの開発を伴う契約です。全文(44ページ)で、ロボットなど物理的な機器の納入は取り上げられておらず、「ロボット」「再学習」「保守」の語も確認できませんでした。「検収」の語が出てくるのは、完成条件の例として挙げた上記の1か所です。

ロボットシステムインテグレータの団体の資料

一般社団法人日本ロボットシステムインテグレータ協会の導入企業向け講座の資料は、仕様定義の段階で、納品時(検収時)に何をチェックするかを決めておくことを求めています。文書の流れとしては、納入仕様書と、対になるユーザーテスト仕様書を置き、そのテストの合格をもって最終の検収が終わる、と説明しています。この資料にはAIや学習済みモデルの話は出てきません。

つまり、条文も公的なチェックリストも業界団体の資料も、「検収の条件を決めておくこと」を前提にしています。けれども、ロボットの動作をどう数え、どの対象物で試し、変更のあとにどこまでやり直すかは、当事者が書かなければ空白のままです。次の節のシートは、その空白を埋めるための項目です。

受け入れ条件シート(記入して使う)

契約の前に、発注側で下の表を埋め、見積や提案を依頼する相手に案として渡します。決まらない行は空欄にせず、「未定」と、誰がいつまでに決めるかを書きます。

A.何を受け取るか

番号決めること決まっていないと起きやすいこと
A1 納入物の一覧ロボット本体、ハンド、カメラなどの機器、制御や認識のソフト、学習済みモデル、設定値、手順書、試験の記録を、品目で書く。「一式」で済ませない受け取ったあとで、含まれていないものが見つかる
A2 受け入れる版試験した時点の機器構成、ソフトの版、学習済みモデルの版、設定値を、識別できる形で残す。試験のあとに手を入れたときの扱いも決める試験したものと納入されたものが違っていても、気づけない
A3 戻せる状態受け入れた版へ戻す手段(バックアップと復元の手順)を用意し、復元できることを試験で確かめる変更のあとに不具合が出ても、受け入れた状態に戻せない
A4 引き渡す資料運転、復旧、点検の手順書、試験の記録、評価に使った対象物とデータの範囲担当が替わると、現場で復旧できない

B.何をどう測るか

番号決めること決まっていないと起きやすいこと
B1 作業が成功した状態1回の作業が成功といえる状態(対象物の位置と状態、品質、所定の時間内に終わったか)を、目で見て確かめられる言葉で書く成功かどうかで、当事者の見方が分かれる
B2 数える単位と分母何を1回と数えるか。自動でのやり直し、人の手助け、途中の停止、想定外の対象物を、試行に入れるか、成功に入れるか。合格の値は、この数え方と組にして書く同じ結果でも数え方で見え方が変わり、双方の読みが食い違う
B3 試験の対象物と現場の条件品種、ばらつきの範囲、置き方、周囲の状況(人の作業、照明など)、運転の続け方。PoCの条件との違いも書くPoCの条件で合格したものが、現場の条件で動かない
B4 評価に使う対象物とデータ調整や学習に使ったものとは別に用意するか。誰が用意し、どこに保管し、試験の前後で入れ替えないか調整に使ったものと同じもので試験して、実際より良く見える
B5 続けて動かす範囲1回の成功ではなく、続けて動かしたときの様子をどこまで見るか(運転の長さ、段取り替え、作業者の交代を含むか)続けて動かすと出る問題が、納入のあとで初めて出る
B6 異常と復旧停止、検出の失敗、対象物の落下などを意図して起こすか。復旧を誰がどの手順で行うか。現場の人による復旧を試験に含めるか止まったときに、現場だけでは戻せない
B7 安全に関わる確認安全に関わる機能の確認を、受け入れ条件のどこで扱うか。評価の方法は専門家の確認を前提にする(安全の記事)安全の確認が、検収と別の場所で抜け落ちる
B8 判定する人と記録立会う人、判定する人、記録の形式(映像、ログ、チェック表)。試験の途中で条件を変えたときの扱い結果を見てから基準が動く

C.合格しなかったとき

番号決めること決まっていないと起きやすいこと
C1 判定の区分合格、条件付きの合格、不合格。条件付きの場合の、残る課題、期限、確認する人「ほぼ合格」のまま受け取ってしまう
C2 是正と再試験再試験の範囲(全体か、該当の項目か)、期間の上限、是正の費用をどちらが持つか不合格のたびに、範囲と費用の話し合いが始まる
C3 受け取らない場合受け取らないと決めたときの、契約と納入物の扱い。論点だけ先に挙げ、書き方は契約書と法務で確認する不合格のあとの進め方が、契約から読み取れない
C4 判定の期限いつまでに判定するか。期限までに判定がなかったときの扱い。通知の方法判定が先延ばしになる。または意図せず受け取った扱いになる
C5 支払いとの関係検収と支払いの時期の結び付け方。法令上の扱いを含め、契約書と法務で確認する検収が遅れたときの、支払いの扱いが決まっていない

D.受け入れたあとに変わるとき

番号決めること決まっていないと起きやすいこと
D1 受け入れ直しにあたる変更学習済みモデルの更新、設定値の変更、ソフトの更新、現場側の変更(照明、治具、カメラの位置)、対象物の追加のうち、どれが受け入れ直しにあたるか変更のたびに、必要かどうかで話がもつれる
D2 受け入れ直しの範囲元の試験のうち何を繰り返すか(後の節の三つの段階で書く)毎回、全部やり直すか、何もしないかの二択になる
D3 費用と期間受け入れ直しの費用をどちらが持つか。変更を知らせる期限変更が先に行われ、確認が追いつかない
D4 受け入れ後の不具合の窓口不具合の申出先と期間。再学習や更新で版が変わったあとに、申出の対象が変わるか(契約書と法務で確認)版が変わったあと、どちらの責任かの整理が難しい
D5 評価用の対象物の更新現場の変化(品種、照明、治具)に合わせて、評価に使う対象物を更新するか。誰が決めるか古い評価用で合格し続け、現場の実態とずれる

次の表は、記入の仕方を見せるために作った架空の例です。実在する案件の内容ではありません。

番号記入の見本(架空の例です)
B2自動で掴み直して成功した場合は、成功と数える。ただし、掴み直しの回数は別に記録し、別の確認項目にする。人が手を出した場合は、成功に数えず、介入として別に数える
B4評価に使う対象物は、PoCにも調整にも使っていない実物を、発注側が選んで別に保管する。試験の前後で入れ替えない
D1学習済みモデルの更新と、対象物の追加は、受け入れ直しにあたる。照明や治具を変えたときは、変更の記録を出したうえで、該当の項目だけを確認する。安全に関わる設定を変えたときは、全体をやり直す

成功の数え方で、同じ結果が違って見える

B2は、シートの中でも読みの食い違いが出やすい行です。ロボットの作業では、1回の作業の中に、自動でのやり直し、人の手助け、停止、想定外の対象物など、複数のことが起きます。どれを成功に入れ、どれを試行から外すかで、同じ試験の結果が違って見えます。同じ問題は、画像で良否を判定する検査のAIでも、何に対する割合なのかが曖昧だと意味が変わる、という形で指摘されてきました。ロボットでは、これに自動のやり直しと人の手助けが加わります。

場面数え方の選択肢読みへの影響
自動で掴み直して成功した成功1回と数える/失敗1回と成功1回に分ける前者では、最初の失敗が数字に出ない
人が手を出して直した成功に含める/失敗にする/試行から外す含めると、人手が前提の動きが成功に見える
途中で停止した失敗にする/試行から外す外すと、止まる頻度が数字に出ない
想定外の対象物が来た失敗にする/対象外として外す外す条件が曖昧だと、都合のよい除外が入りうる
所定の時間を過ぎて終わった成功にする/失敗にする時間の条件が、成功の定義に入っているかで変わる

合格の値は案件ごとに違うため、この記事では示しません。値を決める前に、何を1回と数えるかを文章にし、値と数え方を組にして、契約や試験計画に書きます。「成功率」のように一つの数にまとめる場合も、分母に何を入れたかが書かれていなければ、値だけでは比べられません。

評価に使う対象物は、調整に使ったものと分けて固定する

PoCから納入までの間には、対象物や場面を使った調整や学習が重ねられます。調整に使ったものと同じ対象物と場面で試験をすると、実際の現場より良い結果が出やすくなります。そこで、評価に使う対象物と場面(B4)は、調整や学習に使ったものと分けて用意し、試験の前後で入れ替えないようにします。

物理的に動くロボットでは、評価に使うのはデータだけではありません。実物の対象物、置き方、周囲の状況、作業者の動きまでを含めて「評価の一式」として決め、保管する場所と、確認できる人も決めます。ソフトウェアの開発では、評価用のデータをあらかじめ合意しておく考え方が以前から紹介されていますが、ロボットでは、これに実物と場面の取り決めが加わります。

発注側が指定した条件や、発注側が用意した対象物で試験をする場合は、条文上、注文者の指図によって生じた不適合は追完の請求などの理由にできないとされているため(第636条)、何を誰が指定し、用意したかを記録に残しておきます。実際に当てはまるかは契約の内容によるため、法務に確認してください。

再学習や設定変更のあと、どこまで受け入れ直すか

D2の「受け入れ直しの範囲」は、全体をやり直すか、何もしないかの二択にしないために、あらかじめ段階を決めておきます。次の三つは、この記事の案です。段階の区切りは、案件の機器と契約で決めてください。

  • 段階1(記録と簡易確認):変更の内容、理由、前後の版を記録し、受け入れ時の試験のうち、変更の影響を受けやすい代表的な項目だけを、同じ条件で繰り返す
  • 段階2(該当項目の再試験):変更が及ぶ試験項目を、受け入れ時と同じ対象物の条件、同じ数え方で再度行う。例えば、対象物を追加したときは、追加した対象物についてB1からB6を行う
  • 段階3(受け入れ試験のやり直し):安全に関わる機能や、判定の仕組み全体に変更が及ぶとき、受け入れた版に戻せないとき、受け入れ時の試験条件の外へ動作の範囲を広げるとき

どの変更をどの段階に当てるかは、次の問いで決めます。

  • 変更の影響が、受け入れ時の試験条件の内側にとどまるか、外側に及ぶか
  • 安全に関わる動作に及ぶか
  • 受け入れた版へ戻せるか
  • 変更の中身(使ったデータ、変えた設定の範囲)を、発注側が確認できるか
  • 変更をした人と、確認する人が別か

答えが「外側に及ぶ」「安全に関わる」「戻せない」「確認できない」のどれかになる変更は、段階を上げて扱います。

再学習や設定変更を、誰が提案し、誰が承認し、何を記録するかは、運用の分担として別に決めます。そちらは運用体制の記事で扱っています。ここで決めるのは、変更のあとに受け入れ条件をどこまで繰り返すか、その費用と期間をどちらが持つかです。

契約案や提案書で引っかかる書き方

契約案や提案書を受け取ったとき、次のような書き方があれば、シートのどの行に当たるかを確かめます。

  • 「十分な精度とする」「高い水準とする」とあるが、数え方も試験の条件もない(B1からB4)
  • 「PoCと同等の性能」とあるが、PoCの試験条件への参照がない(B3)
  • 「納入後の調整は別途協議」とあるが、再学習や設定変更が受け入れ直しの対象かどうかが書かれていない(D1、D2)
  • 「検収は発注者の判断による」とあるが、基準と期限がない(B8、C4)
  • 評価に使う対象物やデータを供給側だけが保管し、発注側が確認できない(B4)
  • 受け入れる版が特定されていない。または、試験のあとに版が変わっても知らされない(A2)

シートを使う順番

  1. PoCの報告から、受け入れ条件へ持ち越せるもの(試験の条件、対象物、評価の方法)と、持ち越せないもの(PoCで測っていないこと)を分ける
  2. シートを埋める。決まらない行は「未定」と、誰がいつまでに決めるかを書く
  3. 同じシートを、見積を依頼する複数の相手に渡し、各行にどう答えるかを書面で受け取る。金額を比べる前に前提を揃える考え方は、費用の記事で扱っています
  4. 回答の差を並べ、差の理由を質問する
  5. 契約書への反映は、法務・専門家に確認し、条文の形にしてもらう
  6. 納入の前に、立会いの試験計画(誰が、何を、いつ行うか)を作る

契約書の文言と法律の当てはめは、専門家に確認する

次の点は、この記事では判断しません。個別の契約書に照らして、法務・専門家に確認してください。

  • 契約が請負と準委任のどちらとして扱われるか、条文が当てはまるか
  • 検収と、支払い、解除との関係
  • 不具合を申し出られる期間と、版が変わったあとの扱い
  • 発注側が指定・用意したものの扱い
  • 支払いの時期に関する法令の適用

この整理と、WITHPROJECTSの関わり方

WITHPROJECTSは、公開しているフィジカルAI事業化・FDE支援のページで、ロボットを売って終わる導入支援と、PoCをして終わる実証は行わないとしたうえで、顧客が払う理由から、必要な物理タスク、データ、PoC、量産までを戻って設計する、としています。

この記事は、受け入れ条件を考えるための一般的な整理であり、検収の代行、契約書の確認、成果の保証を示すものではありません。 自動化する作業を人の作業から切り出す考え方はフィジカルAIの工場自動化に、相談の窓口の案内はフィジカルAI事業化・FDE支援のページにあります。

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