顧問先から届く電子データを、AIで読み取る前に|元データの置き場所と、記帳結果との紐づけを決める

目次
顧問先から、請求書や領収書のPDF、メールに添付されたファイル、クラウドサービスの画面から保存したデータが届く。それを読み取りツールや自動仕訳に流す前に、事務所として決めておきたいことが二つあります。届いたものを、受け取ったままの形でどこに残すか。そして、読み取りや記帳の結果から、その元のデータへ戻れるか。この記事は、税理士事務所の所長や業務責任者が、AIやOCRを使う前に、この二つを整理するためのものです。
法令の部分は、電子帳簿保存法の条文と、国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」令和8年7月版の原文を読んで整理しています。条文は2026年10月9日にe-Govで確認しました。個別の顧問先が保存の要件を満たすかどうかの判断や、製品の比較、精度や時間の数字は扱いません。なお、当社は税理士事務所向けの税務AXを提供しているため、その立場は記事の最後に記載しています。
まず結論:AIの前に決めるのは、三つ
- 届いたデータが、誰の電子取引のものか
- 受け取ったままの元データを、読み取り結果とは別に、どこへ残すか
- 記帳した結果から、元データへ戻る目印を、何で付けるか
三つとも、AIがなくても必要な整理です。ただ、AIやOCRは読み取った値と名前を自動で作るため、元のファイルより読み取り結果のほうが先に扱われやすくなります。順序を決めずに進めると、後から「この仕訳の元は、どのファイルか」を探す作業が、顧問先の数だけ増えていきます。
事務所に届く電子データは、誰の電子取引か
電子取引とは、取引情報(注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項)の授受を、電磁的方式で行う取引を指します(電子帳簿保存法第2条第5号)。同法第7条は、所得税(源泉徴収に係る所得税を除く)及び法人税に係る保存義務者が電子取引を行った場合に、その取引情報に係る電磁的記録を、財務省令で定めるところにより保存しなければならないと定めています。
条文の文言は、電子取引を行った保存義務者が保存する、という構造です。国税庁の一問一答も、問1で、保存義務者が取引情報を電磁的方式で授受する取引を行った場合の制度として説明しています。そのため、事務所に届くデータは、次のように分けて考えると整理しやすくなります。
| 事務所に届くもの | 取引の当事者 | 事務所で決めること |
|---|---|---|
| 顧問先が取引先から受け取った請求書・領収書のデータを、転送や共有で受け取ったもの | 顧問先と、その取引先 | 事務所が受け取った写しと、顧問先が持つ元の受領データの関係を記録する。どちらを元データとして扱うかを、顧問先と決める |
| 顧問先が使っているクラウドの請求書サービスなどにあるデータ | 顧問先と、その取引先 | 事務所が、どの権限で閲覧・取得するか。取得したデータを事務所でも持つのか |
| 事務所が自分で取引先とやり取りするデータ(事務所の経費、顧問先への請求書など) | 事務所 | 事務所自身の保存として整える |
| 紙で受け取ったものを、撮影やスキャンで画像にしたもの | 電子取引とは保存の区分が異なる | 国税庁は、スキャナ保存関係の一問一答を別に出している。そちらで確認する |
税理士事務所が顧問先の電子取引データを預かる場合に、どこまでを事務所の責任として扱うかは、確認した条文と一問一答の範囲では述べられていません。同資料の本文には「税理士」「会計事務所」「記帳代行」の語を含む問は見当たりませんでした。預かる範囲、保管の場所、返却や削除の扱いは、顧問先との取り決めとして、事務所が文書で決めておく事項です。個別の適否は、国税庁の原文と所轄の税務署でご確認ください。
元データを、読み取りの前に決めた場所へ残す
国税庁の一問一答には、元データの扱いを考えるうえで押さえておきたい記載がいくつかあります。
- 問4・問6:メール本文に取引情報があれば、そのメールを保存する。添付ファイルで取引情報を受け取った場合は、その添付ファイルを保存する。取引情報を含まないメールまで保存する必要はない
- 問5:メールで受け取ったデータは、検索できる状態で保存する必要があり、メールソフト上で閲覧できるだけでは十分とはいえない
- 問32・問35:保存先が受け取り方に応じて複数に分かれていてもよい。ただし、どの取引先のデータがどこにあるかが分かり、速やかに出力できるように管理する。合理的な理由なく規則性なく保存先を散らし、検索の措置もなく速やかに出力できない場合は、その保存方法は認められないとされている。同じ請求書を、クラウドとメールの二つで受け取った場合は、同一であれば一つを保存すればよい
- 問36:受領した請求書等の取引情報を確認して、改めてその取引情報だけを自分で入力することをもって、電磁的記録の保存とすることは認められない
- 問42:エクセルやワードで受け取ったデータをPDFに変換して保存することや、パスワードを解除してから保存することは、取引内容が変更されるおそれのない合理的な方法であれば問題ない。必ずしも、相手方とやり取りしたデータそのものでなくてもよい
読み取りツールが出す値は、問36が認めないとする、確認して自分で入力した情報と同じ扱いになるのか。それとも、問42がいう、取引内容が変更されるおそれのない合理的な方法での編集にあたるのか。国税庁の一問一答では、通常の保存(電子帳簿保存法第7条)を扱う問(問30、問36など)にAIやOCRの語は出てきません。そのため、現行の保存の要件について、読み取り結果の位置づけを直接読み取ることはできません。
なお、問66は、令和9年1月1日以後に施行される別の特例(法第8条第5項。重加算税の加重措置の適用対象から除外される場合)の要件の説明の中で、PDFからOCR等で読み取って抽出したデータは、取引内容を反映しているか確認・補正を行うことが前提で、取引内容の変更可能性があることから、その特例の要件でいう「合理的な方法による編集」の範囲内の編集とはいえない、と述べています。これはその特例の話であり、現行の保存義務(第7条)の要件へそのまま当てはまるかどうかは、この資料からは読み取れません。個別の判断は、国税庁の原文と所轄の税務署でご確認ください。
こうした点を踏まえ、事務所の運用としては、受け取ったファイルを読み取り結果とは別に残し、読み取りのために上書き・削除・移動をしない形にしておくのが、判断を要さない側の置き方です。検索のためにファイル名を付け替えるときも、ファイルの中身は変えず、付け替える前の名前と、受領した日・経路・送信元を、別の記録に残します。
読み取りの結果から、ファイル名を自動で付ける運用にも注意が必要です。読み違えた日付や金額がそのままファイル名になると、日付・金額・取引先で探すときに、そのファイルが見つかりません。名前を付ける前に、人が元のファイルと見比べる工程を置きます。
記帳した結果から、元データへ戻る目印を決める
元データを残しても、記帳した結果から探し出せなければ、確認のたびに開き直す作業が残ります。そこで、資料ごとに次の項目を、同じ形で記録します。
| 記録する項目 | 内容の例 | 決めておくこと |
|---|---|---|
| 顧問先 | 顧問先の管理番号 | 全ての資料に付ける |
| 受領の情報 | 受け取った日、経路(メール・クラウド・共有フォルダなど)、送信元 | 誰が記録するか |
| 元データの保管先 | 保管場所とファイル名 | 受け取ったままの形で残す場所と、触れてよい人 |
| 読み取り結果の保管先 | 読み取りツールが出した値の置き場所、出力した日 | 元データとは別の場所にする |
| 記帳結果の参照 | 仕訳の日付・番号、または会計ソフトの証憑欄に入れた参照 | 仕訳から元データを開く経路 |
| 確認の記録 | 確認した人、確認した日、直した箇所と直す前の値 | 直した内容を元データに反映しない |
この表の目的は、仕訳を見たときに、受領の情報、元データ、読み取り結果、確認の記録へ、1行でたどれる状態にすることです。なお、従業員の立替払いで受領した電子データを会社として集約するまでの一定の間、従業員側に置いたままにする場合の管理方法として、問12は、日付・金額・取引先の検索条件に紐づけて保存状況を情報として管理しておくことを示しています。あわせて、規則第4条第1項各号の措置と、税務調査の際に提出できる体制が求められています。事務所の運用にそのまま当てはまるかは、国税庁の原文と所轄の税務署でご確認ください。
AI-OCR・自動仕訳・生成AIの出力ごとに、何を確認するかの整理は、会計ソフトの自動仕訳・AI-OCR・生成AIは何が違うかにまとめています。この記事は、その手前の、元データをどう残すかに限ります。
整理の手順
ステップ1:顧問先ごとの届き方を一覧にする
顧問先ごとに、何が、どの経路で、誰から届くかを書き出します。メール添付、クラウドの請求書サービス、共有フォルダ、チャットでの転送、スクリーンショット、紙を撮影した画像などです。現状の棚卸し全体の視点は、記帳後の確認業務を棚卸しする5つの視点にあります。ここでは、届いた後の「残し方」に絞って、経路ごとに元データの形を確認します。
ステップ2:元データの置き場所と、顧問先への依頼を決める
元データを置く場所と、触れてよい人を決めます。あわせて、顧問先に依頼する内容も文書にします。たとえば次のとおりです。
- 受け取ったファイルを、加工せずにそのまま送る
- 可能な範囲で、スクリーンショットではなく、受け取ったファイルそのものを送る
- 複数の請求書を一つのファイルにまとめずに送る(まとまって届いた場合の分割は、内容を変えずに行い、分割前のファイルとの対応を記録する。一問一答の問54も、データの同一性を保ったまま、記録事項を変更せずに分割する方法を例に挙げている)
ステップ3:紐づけの目印を決める
前の節の表をもとに、事務所で使う記録項目を決めます。会計ソフトの証憑欄に参照を入れるのか、別の管理表を持つのかは、事務所が使っているソフトと人数で変わります。まず、仕訳から元データまで、何回の操作で戻れるかを、数件の実例で試します。
ステップ4:検索できる名前と、改ざん防止の方法を決める
施行規則第4条第1項は、電子取引の電磁的記録を、取引の受領が書面で行われたとした場合に書面を保存すべき場所に、その書面を保存すべき期間、次のいずれかの措置を行って保存することを求めています。タイムスタンプに関する措置、訂正削除の記録が残る(または訂正削除ができない)システムでの授受と保存、そして、正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程を定めて運用し備え付けること、です。あわせて、見読可能装置の備付けと、取引年月日その他の日付、取引金額、取引先で検索できる機能の確保などの要件があり、検索の要件には緩和の定めもあります。
どの方法を選べるか、検索の要件の緩和が顧問先に使えるかは、顧問先ごとに異なる場合があります。一問一答の問50は、システムがない場合の例として、日付・金額・取引先を含むファイル名を、統一した順序で付ける方法と、表計算ソフトで一覧表を作る方法を挙げています。ファイル名による方法には、税務職員のダウンロードの求めに応じられる状態にしておくことが前提として付いています。事務所としては、顧問先ごとにバラバラな名前の付け方にならないよう、基本の付け方を一つ決め、例外の顧問先だけを記録します。選択した方法の適否は、国税庁の原文と所轄の税務署でご確認ください。
どこから見直すか:判断条件
元データの置き場所の整理から始めるのが向いているのは、次のような場合です。
- 読み取りのあとに、元のファイルを移動・改名・削除している
- 元のデータが、メールの受信箱やチャットの履歴にしか残っていない顧問先がある
- 同じ請求書が、メールとクラウドの両方から届き、どちらを元として扱うか決まっていない
紐づけの整理から始めるのが向いているのは、次のような場合です。
- 仕訳から元の資料を開くのに、ファイル名や取引先で探し直している
- 担当者が替わると、どこに何があるか分からなくなる
AIやOCRの導入を先に進めるのが向いていないのは、顧問先ごとの届き方が一覧になっておらず、元データの置き場所も決まっていない状態です。読み取りの精度より先に、受け取ったものを残す手順を決めます。
失敗パターン
- 読み取りの結果だけを保管し、受け取ったファイルを残していない
- 読み取りの際に、元のファイルを上書きしたり、名前を変えて元の名前を残さなかったりする
- 読み取った値から自動で付けたファイル名を確認せず、検索で見つからなくなる
- 顧問先の電子データを事務所が預かる範囲を決めず、どちらが保管しているのか分からなくなる
- 紙を撮影した画像と、メールで受け取ったデータを、同じ扱いにしている
- 直した内容が元データ側にだけ反映され、直す前の値が残っていない
- 保存の方法を決めたまま、顧問先ごとの例外を記録せず、担当者が替わると運用が崩れる
保存の要件を満たしているかどうかは、顧問先ごと、取引ごとに判断が分かれることがあります。この記事は、その判断を行うものではありません。
当社の税務AXについて
当社の税務AXは、税理士事務所の記帳後の確認業務(請求書や受領請求書と、それぞれの入金・支払の記録との突合)の前処理を、事務所ごとに設計・実装・運用する取り組みです。税務判断は、これまでどおり税理士が行います。
差額や重複の候補に、元データの位置を添える形を目指していますが、実際の範囲は事務所ごとに合意し、検証を経て運用に移します。銀行明細を元データとする照合は、現時点では含みません。
具体的な内容は税務AX|記帳後の確認を、元データまで追える形に整えるに、顧問先データを外部へ渡すときの考え方は税理士事務所のAI化、委託先の選び方にまとめています。
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