採用の問い合わせにチャットボットが自動応答するとき、答えてよい質問は何で決めるか

目次
応募者からは、「応募の方法」「選考の流れ」「面接の持ち物」「勤務地」「配属後の異動」といった質問が、時間を選ばず届きます。この一次返信にチャットボットや生成AIを使うと、時間外の質問にも早く返せる場合があります。ところが、募集要項と少し違う言い回しで返してしまう、募集内容を変えたのにAIの答えが古いまま残る、募集要項に書いていないことを「ありません」と言い切ってしまう、といったことも起こりえます。
この記事は、人事責任者・採用担当の方向けに、応募者の質問を「AIが答える」「文面をそのまま示すにとどめる」「人に渡す」に分ける考え方と、返信の根拠になる情報の持ち主、変更したときの反映、誤回答が見つかったときの直し方を、問いと答えの形で整理したものです。
AIを使っていることの伝え方、AIの使い方や自分の情報の使われ方を聞かれたとき、不合格の理由を聞かれたときの答え方は、採用でAIを使うとき、応募者に何をどこまで伝えるかにまとめています。面接日程の再調整や辞退の連絡は、面接日程調整を自動化する前に、例外は誰に戻すかを決めるで扱っています。この記事では、そのどちらも繰り返しません。また、法令上の適否は判断しません。個別の場面で迷う点は、社内の法務や専門家、所管の窓口に確かめたうえで決めてください。
この記事で使う言葉
- 自動応答:応募者の質問に、人が中身を見る前に返す返信のことです。AIが文面を作るものも、あらかじめ決めた文面を返すものも含めます。
- 回答元とは、返信の根拠として参照する文書やデータを指します。募集要項、選考の流れの案内、応募方法のページ、面接の案内などが当たります。
- 持ち主:回答元の内容を決め、変更を承認する人のことです。役職名ではなく、役割で決めます。
- 全文表示:回答元の文面を、AIが言い換えたり要約したりせずに、そのまま示す返信のことです。
- 引き渡し:質問を人に渡すことです。誰に渡すかと、渡すまでに応募者へ何を返すかまで含めて決めます。
「答えてよい質問」は、話題ではなく3つの問いで決める
「給与の質問は人に回す」のように話題で決めると、話題の外にある似た質問が漏れます。質問が届くたびに、次の3つを上から順に当てはめるほうが、担当者ごとのぶれを減らす手がかりになります。判断条件は、次のとおりです。
- その答えは、回答元の文書にそのまま書いてありますか。書いてなければ、AIに答えさせません。文書にないことを補う動きは、止めておくほうが安全です。
- その答えは、応募者ごと、または時期ごとに変わりますか(選考の状況、面接の空き、本人の事情への配慮など)。変わるなら、AIは答えず、人に渡します。
- 答え方しだいで、応募者が応募や辞退を決めたり、選考の見込みを読み取ったりしますか。そうなら、人に渡します。
3つとも問題がない質問だけが、AIの答える対象になります。そのうえで、条件の表現を左右する質問は、AIの文章ではなく全文表示にとどめます。3番目の問いに当たる質問のうち、募集要項に条件として書かれているもの(給与や勤務地など)は、人に渡さず、全文表示にとどめます。
| 質問の例 | 回答元 | 扱い | 理由 |
|---|---|---|---|
| 応募の方法、提出書類の形式 | 応募方法の案内 | AIが答え、案内ページを添える | 文書に書いてあり、人によって答えが変わらない |
| 面接の服装、持ち物、会場への行き方 | 面接の案内 | AIが答える | 同上 |
| 選考の流れ | 選考の流れの案内 | AIが答える。ただし、時期や結果の見込みは含めない | 流れは文書にあるが、時期は応募者ごとに違う |
| 勤務地、勤務時間、休日、給与、雇用形態 | 募集要項 | 全文表示。該当箇所を示すだけにする | 言い換えでずれると、条件の受け止めがずれる |
| 募集要項に書かれていない待遇や制度 | なし | 人に渡す。「書かれていません」で終わらせない | 書かれていないことと、ないこととは別である |
| 選考の状況、結果の時期、「通過しましたか」 | 採用管理システムの個別の状況 | 人に渡す。または、決めた定型の表示にとどめる | 応募者ごとに違い、結果に関わる |
| 体調や家庭の事情、面接での配慮の希望 | なし | 人に渡す。AIは受け付けた旨の定型文を返すところまで | 個別の事情であり、返し方で選考への見込みが変わる |
| 選考で重視する点、他の応募者との比べ方 | なし | 人に渡す | 評価の基準に関わる |
表の「扱い」は例です。自社の回答元と体制に合わせて、質問の種類ごとに決め直してください。
募集要項の条件を、AIに言い換えさせない理由
募集要項の条件は、職業安定法が定める募集時の明示や的確な表示に関わりうる事項です。条文は、次のように定めています。
- 第5条の3:労働者の募集を行う者は、募集に当たり、募集に応じて労働者になろうとする者に対し、従事すべき業務の内容および賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。厚生労働省令(職業安定法施行規則)は、明示の方法(書面の交付など)を定める事項として、業務の内容、労働契約の期間、就業の場所(就業の場所の変更の範囲を含む)、始業・終業の時刻、賃金、社会保険の適用などを挙げています。
- 第5条の4:労働者の募集を行う者などが、広告等により情報を提供するときは、虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはならない(第1項)。労働者の募集を行う者および募集受託者は、広告等により労働者の募集に関する情報を提供するときは、正確かつ最新の内容に保たなければならない(第2項)。「広告等」の方法は、省令に、書面の交付、ファクシミリ、電子メール等の送信、放送、自動公衆送信装置その他電子計算機と電気通信回線を接続してする方法などが挙げられています。
チャットの返信がこの「広告等」に当たるのか、募集要項と違う返信がどう扱われるのかは、条文を読んだだけでは判断できません。この記事も判断しません。確かめたい場合は、専門家や所管の窓口に確認してください。ここで押さえたいのは運用上の点です。応募者の手元に届く文面が、募集要項と食い違わないこと、古くなっていないことが、出発点になります。
架空の例で、AIが補ってしまう場面を見る
以下は架空の例です。実在の企業や応募者の文面ではありません。
募集要項に、副業の可否についての記載がまったくないとします。応募者が「副業はできますか」と聞きました。このときAIが「副業は認められています」と答えれば、回答元に書かれていないことを補ったことになります。仮に実際に認められていても、それをAIの返信で初めて応募者に伝えるのは、順序が逆です。募集要項に書き足すかどうかは、持ち主が決める事項だからです。
この質問は、1番目の問い(答えが回答元に書いてあるか)で止まります。回答元に答えがないので、人に渡し、「担当者から改めてご連絡します」という定型の返信にとどめます。
ただし、題材によっては扱いが変わります。前節で挙げたとおり、就業の場所や業務の内容の「変更の範囲」は、省令が募集時の明示事項に含めている項目です。「異動はありますか」と聞かれて、募集要項の記載が足りないと気づいたときは、AIに補わせる場面ではありません。募集要項の側を直す対象として、持ち主に戻します。記載が足りているかどうかは、この記事では判断しません。
回答元は誰が持ち、変更をどう反映するのか
誤回答の原因は、AIの賢さだけでなく、回答元が古い、持ち主がいない、変更が届かない、といった運用にあることも少なくありません。そこで、回答元ごとに持ち主を決めます。持ち主が決まっていない文書は、AIに参照させません。
| 回答元 | 持ち主の役割(例) | 変更が起きる場面 | 差し替える前に確かめること |
|---|---|---|---|
| 募集要項 | 募集を出す部門の責任者と採用担当 | 条件や仕事内容の変更、募集の終了 | 変更を承認した人と日付。取り下げる旧版 |
| 選考の流れの案内 | 採用担当 | 面接の回数や形式の変更 | 以前の流れをすでに案内された応募者がいないか |
| 応募方法・提出書類 | 採用担当 | 応募フォームの変更 | 応募フォームの実際の画面と一致するか |
| 会社や制度の説明 | 人事制度の担当 | 制度の改定 | 改定の適用日 |
| 応募者ごとの状況 | 採用管理システムの管理者 | 選考の進行 | AIが読んでよい項目か。読ませない項目の指定 |
持ち主は、実在の担当者に置き換えて使います。表の役割は、あくまで例です。
募集内容を変えたとき、AIの答えが直るまでの手順
手順1:回答元ごとに、持ち主と最終更新日を、文書の先頭に書く。
手順2:募集内容の変更が決まったら、持ち主から回答元の管理者へ連絡する経路を決める。連絡の経路が決まっていないと、募集要項だけが直り、AIの参照先が古いまま残ります。
手順3:回答元を差し替えたら、変更前の内容を尋ねる質問を実際にいくつか打って、旧い内容が返ってこないかを確かめる。
手順4:返信に、どの時点の募集要項に基づく答えかを添える。厚生労働省の指針(平成11年労働省告示第141号)は、労働者の募集を行う者が募集情報を正確かつ最新の内容に保つための措置として、募集を終了した場合や内容を変更した場合に、その情報の提供を速やかに終了または変更することと、情報の時点を明らかにすることを挙げています。この指針は広告等による情報提供についての定めで、チャットの返信に当てはまるかは、この記事では判断しません。時点を示す運用は、そこから借りた考え方です。
手順5:最終更新日から決めた期間を過ぎた回答元は、AIが答えず、人に渡す。期間の長さは、募集内容が変わる頻度に合わせて、持ち主が決めます。
誤回答が見つかったとき、直す場所はどこか
誤回答を、すべて「AIの精度」の問題として扱うと、直す場所を誤ります。回答元と返信を並べて、原因を次の3つに分けます。
| 原因 | 見分け方 | 直す場所 | 応募者への対応 |
|---|---|---|---|
| 回答元が誤っている、または古い | 回答元の文面を見ると、同じ誤りがある | 回答元。持ち主が直す。同じ誤りが、求人媒体や別の案内にも残っていないかも見る | 同じ内容を聞いた応募者へ訂正を伝えるかは、人が判断する |
| 回答元は正しいが、AIが読み違えた、または言い換えでずれた | 回答元と返信を並べると、ずれている | 全文表示に切り替える。答える範囲から外す。指示文を直す | 同上 |
| 回答元にないことを、AIが答えた | 回答元に該当する記述がない | その質問を「人に渡す」へ移す。回答元に載せるべきかは、持ち主が決める | 同上 |
誤回答が一つ見つかった時点で、同じ質問への返信を止めるか、人に渡す扱いに切り替えるかを決めます。直し終えるまでの間、AIが同じ誤りを繰り返さないようにするためです。訂正の連絡をどこまでさかのぼるかは、返信の記録から、同じ質問をした応募者を探せるかに左右されます。記録には、質問、返信、参照した回答元の版、直した場所、対応した人を残します。
答えられなかった質問と、人に渡した質問は、どう拾うのか
AIが答えなかった質問と、人に渡した質問は、回答元の改善点の一覧になります。放置すると、同じ質問が毎回人に届き、AIを置いた意味が薄れます。定期的に、持ち主を交えて一覧を見て、質問を次の3つに振り分けます。
- 回答元に載せる質問:応募者がよく知りたがるのに、募集要項に書かれていないことです。載せるかどうかは持ち主が決め、載せた後はAIが答える対象に加わります。
- 人に渡す質問として固定する質問:個別の事情や、評価に関わるものです。AIの対象にはしません。
- 対応しない質問:応募とは関係のない問い合わせなどです。
引き渡しのときに応募者へ返す文面には、連絡の目安を書く場合、守れる範囲だけを書きます。守れない目安を書くと、人に渡したこと自体が、応募者の不信につながりかねません。
応募者がチャットに書いた内容は、どこへ送られるのか
応募者の質問には、氏名、連絡先、応募の状況、事情が混ざることがあります。外部の生成AIサービスを使うなら、その内容がどこへ送られ、どう保管され、学習に使われるのかを、公開前に確かめます。個人情報保護委員会の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)は、個人情報取扱事業者に対して、個人情報を含むプロンプトを入力するときは、特定された利用目的の達成に必要な範囲内であることを十分に確認することを挙げています。さらに、本人の同意を得ないまま個人データを含む入力をし、それが返答の出力のほかに使われる場合は、個人情報保護法に違反する可能性があるとして、提供事業者が学習に使わないことなどの確認を求めています。同じ文書は、利用者に向けて、応答結果に不正確な内容が含まれることがある点にも触れています。この文書は令和5年のもので、その後の更新は確認していません。
公開前に、少なくとも次を確かめます。
- 入力欄の近くに、氏名や連絡先など、書かなくてよい内容の案内があるか
- チャットの記録を、誰が、いつまで見られるか。保管と削除は、不採用者の応募者データは、いつ・どこから消すかの考え方と合わせる
- 提供事業者の利用規約で、入力内容の保存と学習への利用がどう扱われているか
採用AXの公開ページでは、どこに置かれているか
WITHPROJECTSは、公開している採用AXの解説ページで、応募対応のうち「よくある質問への一次返信、受付の確認、ステータスの更新」をAI・ルールに任せやすいこと、「個別の事情への対応、例外的な問い合わせ」を人が決めることとして整理しています。あわせて、AIの出力を誰が確認するかと、例外が出たときの動きを決めること、稼働後の誤りや例外を見て直す運用改善を、進め方の工程に挙げています。この記事は、その表の一行を、質問の種類と回答元の運用に分けて読み直したものです。WITHPROJECTSは依頼先になり得る立場でもあるため、自社については、公開ページに書いてある範囲のことだけを述べています。
採用業務全体をAI・ルール・人にどう分けるかは採用AXとはに、AIを使う委託先を比べる観点は採用AIの委託先の選び方にまとめています。
回答範囲を整理したいとき
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