顧問先からの資料回収が遅いとき、督促の前に見直す「依頼の設計」:何を・いつまでに・どの形で頼み、足りないときはどう戻すか

目次
顧問先からの資料がなかなか届かない。届いても、対象の月が欠けていたり、読めなかったりして、もう一度頼むことになる。こうなると、催促の回数や文面に目が向きがちです。ただ、同じ顧問先に同じ頼み方を続けている限り、同じ遅れと同じ不備が毎月繰り返されることがあります。この記事は、税理士事務所の所長や業務責任者が、督促を強める前に、顧問先に出している依頼の中身そのものと、足りないときの戻し方、戻した記録の残し方を点検するための整理です。催促ツールの比較や、回収にかかる日数を縮められるといった数字は扱いません。個々の顧問先の事情への対応も、この記事では断定しません。なお、当社は税理士事務所向けの税務AXを提供しているため、その立場は記事の最後に記載しています。
事務所の確認業務全体を相談前に棚卸しする視点は、記帳後の確認業務を棚卸しする5つの視点にまとめています。この記事は、そのうち「顧問先に何をどう頼むか」だけを掘り下げたものです。
まず結論:遅れと不備の一因として、依頼票の5項目のどれかが決まっていない場合がある
ここでいう依頼票とは、顧問先ごとに、頼む資料、期限、送り方、揃ったと判断する基準、足りないときの戻し方を、1枚にそろえて書いたものを指します。紙の様式である必要はなく、事務所の誰が見ても同じ内容が分かる状態であれば足ります。
| 項目 | 決めること | 決まっていないと起きやすいこと |
|---|---|---|
| 何を | 資料の名前、対象の月、対象の口座やカードまで | 「通帳をください」だけでは、どの口座のどの月か、顧問先に伝わらない |
| いつまでに | 期限の日付と、その期限が必要な理由(事務所の次の工程) | 期限が目安として受け取られ、後回しにされる |
| どの形で | 送り方を顧問先ごとに1つ(写真、PDF、共有フォルダ、郵送など) | 経路が混ざり、届いたかどうかが担当者の記憶頼みになる |
| 揃った基準 | 受け取ったときに見る点(期間の欠け、読めるか、対象の口座か) | 「届いた」と「使える」が区別されず、処理の途中で不備が見つかる |
| 戻し方 | 誰が、何を、いつまでに、どの形で戻すか | 戻す文面が担当者ごとに違い、同じ不備が繰り返される |
遅れの原因は、顧問先の事情にあることも、事務所側の運用にあることも、その両方にあることもあります。どれが当てはまるかは、事務所ごとに違います。この表は、原因を決めつけるためのものではなく、依頼の側から確かめられる点を並べたものです。
「何を」「いつまでに」「どの形で」は、顧問先の区分ごとに分ける
全顧問先に同じ依頼票を使うと、一部の顧問先には合わないことがあります。資料がどこから生まれるかで、顧問先を大まかに区分すると、依頼の中身を分けやすくなります。次の区分と「起こりやすいつまずき」は、一般的な想定の例であり、調査に基づくものではありません。区分の切り方は事務所ごとに決めます。
| 顧問先の区分(例) | 頼む資料の例 | 形の決め方 | 起こりやすいつまずき |
|---|---|---|---|
| 取引の明細が会計ソフトに取り込まれる | 取り込まれない取引の証憑、現金の動き | ソフトで確認できるものは頼まず、取り込まれないものだけを頼む | 何が取り込み済みかを、顧問先が判断できない |
| 紙の領収書や請求書が中心 | 領収書、請求書、通帳の写し | 撮影して送る形か、まとめて郵送する形のどちらかに絞る | 月の途中で溜まり、締めの直前にまとめて届く |
| 経理を担当する人が別にいる | 経理担当者が持つ帳票 | 窓口を経理担当者に絞る | 社長宛ての依頼が、担当者に届かない |
| 社長が経理を兼ねている | 領収書、通帳、請求書 | 社長の手間が最も少ない経路を1つ選ぶ | 本業が忙しい時期に後回しになる |
期限は、日付だけでなく理由を添えて決めます。たとえば「この日までに届くと、事務所での確認に間に合います」と伝えると、期限が事務所の都合ではなく、次の工程のためであることが顧問先に伝わります。期限には、事務所の内部の目安として相談の余地があるものと、制度上動かせないものがあります。後者の日付や取扱いは、この記事では扱わず、所管の公表や専門家に確認してください。
依頼文に入れる項目
依頼文は、「資料をお願いします」では動きにくくなります。次の項目を入れると、顧問先が迷いにくくなります。
- 対象の月と、資料の名前(口座やカードが複数あれば、どれか)
- 期限の日付と、その期限が必要な理由
- 送り方(送り先、形式)
- 届いたあとに事務所が確認すること
- 不明な点があるときの連絡先
架空の文例を示します。事務所の運用に合わせて調整してください。
【資料のお願い】○月分について、次の資料を○日までに、共有フォルダへ写真かPDFでお送りください。A銀行の普通預金の通帳(○月の入出金が分かる範囲)、現金で支払った経費の領収書。届いた資料は、対象の月が揃っているか、読み取れるかを確認し、足りない点があればあらためてご連絡します。ご不明な点は、担当の○○までお知らせください。
この文例は、項目の並べ方を示すためのものです。実際の資料名や期限は、顧問先ごとの依頼票から転記します。
足りないときの戻し方:不足・不備・確認の3つに分ける
戻す場面をひとまとめに「再依頼」と呼ぶと、戻す文面も、戻した後の扱いも、担当者ごとにばらつきます。次の3つに分けると、戻し方を決めやすくなります。
- 不足:頼んだ資料が、まだ届いていない状態を指す
- 不備:届いたが、そのままでは使えない状態を指す(期間の欠け、読めない、対象外の口座など)
- 確認:資料はあるが、内容について顧問先に聞く必要がある状態を指す(用途の分からない支出など)
| 区分 | 戻し先 | 戻すときに書くこと | 戻した後の扱い |
|---|---|---|---|
| 不足 | 顧問先の窓口 | 資料の名前、対象の月、再提出の期限 | 届いた分から先に進めるかを、事務所で決めておく |
| 不備 | 顧問先の窓口 | どの資料の、どの点が使えないか、どうなっていればよいか、再提出の期限 | 再提出されたら、受け取りの点検からやり直す |
| 確認 | 経理の担当者または社長 | 取引の日付と金額、聞きたい内容 | 回答が来るまでは未確定として保留し、記録に残す |
科目や税務上の扱いが分かれる内容は、職員が顧問先に聞く前に、税理士に回すかどうかを決めておきます。税務の判断は、これまでどおり税理士が行う前提で、個別の適否はこの記事では扱いません。所属の税理士会や専門家に確認してください。
戻した記録を、次の依頼票の改訂に返す
戻した事実を残すだけでなく、「なぜ戻したか」を依頼票の5項目に結びつけて残すと、次の依頼を直す材料になります。
| 記録する項目 | 内容 |
|---|---|
| 顧問先・対象の月・資料の名前 | どの依頼についての戻しか |
| 戻した日と、戻した人 | いつ、誰が戻したか |
| 戻しの区分 | 不足、不備、確認のどれか |
| 原因として疑う依頼票の項目 | 何を、いつまでに、どの形で、揃った基準、戻し方のどれか |
| 再提出の期限と、再提出された日 | 戻してから揃うまでの経過 |
| 戻した後の扱い | 届いた分で進めた、保留した、など |
一覧にためたら、月末などに「原因として疑う項目」ごとに数えます。傾きを見る例は次のとおりです。
| 戻しの傾向(例) | 先に見直す項目 |
|---|---|
| 対象の月の欠けが多い | 「何を」:対象の月と口座の書き方 |
| 読み取れない、傾いている、といった不備が多い | 「どの形で」:撮り方や送り方の案内 |
| 特定の資料だけが毎回届かない | 「何を」:その資料を顧問先が把握しているか、「どの形で」:その資料の出どころ |
| 期限の直前にまとめて届く | 「いつまでに」:期限の理由の伝え方、月の途中で送れる形 |
| 同じ内容を担当者ごとに違う言い方で戻している | 「戻し方」:戻す文面の項目 |
集計は、はじめは手書きの一覧で構いません。ここで出した数字は、依頼票を直したあとに比べるための出発点です。直せば遅れが減るとは約束できません。
依頼を先に見直すのが向いている場合、督促を先に見直すのが向いている場合
依頼票の見直しから始めるのが向いているのは、次のような場合です。
- 同じ種類の不備が、毎月のように出ている
- 依頼が「資料をお願いします」の一文で、資料の名前や対象の月を書いていない
- 顧問先ごとに送り方がばらばらで、届いたかどうかを担当者に聞かないと分からない
- 戻す文面が、担当者ごとに違う
督促の運用(期限前の連絡、期限後の連絡の時期と担当)を先に見直すのが向いているのは、次のような場合です。
- 依頼票は整っていて、特定の顧問先だけが期限を過ぎる
- 期限を過ぎたあとの連絡が、担当者の判断に任されている
どちらにも向いていないのは、顧問契約の条件や報酬の見直しが論点になっている場合です。これは依頼の設計とは別の判断で、この記事では扱いません。
失敗パターン
- 全顧問先に同じ依頼文を送り、区分ごとの違いを見ない
- 期限だけを前倒しして、その理由を伝えない
- 不備を電話や口頭だけで伝え、何をどう戻したかが残らない
- 戻した理由を区分しないまま、毎回個別に対応して終わる
- 依頼票を一度作ったきり更新せず、顧問先の担当者の交代や会計ソフトの変更に追いつかない
- 記録に、顧問先への評価や推測を書き込み、事実と混ざる
事務所の中で決めておくこと
| 決めること | 例 |
|---|---|
| 依頼票の持ち主 | 顧問先ごとの担当者か、事務所で1人か。誰が更新するか |
| 戻しの判断者 | 職員が戻してよい範囲と、税理士に回す範囲 |
| 記録の置き場 | 戻しの一覧を、担当者が共有して見られる場所 |
| 資料の送り方の取扱い | 顧問先の情報を送受信する経路の考え方(個別の可否は所属の税理士会や専門家に確認) |
当社の税務AXについて
当社の税務AXは、税理士事務所の記帳後の確認業務(請求書や受領請求書と、それぞれの入金・支払の記録との突合)の前処理を、事務所ごとに設計・実装・運用する取り組みです。税務判断は、これまでどおり税理士が行います。
当社の公開ページでは、進め方のステップ1として、利用しているソフト、元資料、確認にかかっている時間、差戻しの経路を確認するとしています。この記事で扱った資料依頼の設計は、その前に事務所の中で整理できる内容であり、税務AXの提供範囲を説明するものではありません。銀行明細を元データとする照合は、現時点では含みません。
具体的な内容は税務AX|記帳後の確認を、元データまで追える形に整えるに、誰に頼むかを先に決めたい方は税理士事務所のAI化、委託先の選び方にまとめています。
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