AIに社内文書を読ませる前の点検:どれが正か、判断の根拠、例外の扱い、更新の持ち主を文書ごとに確かめる

目次
社内のマニュアルや過去資料をAIに使わせたい。そう考えて資料を集めはじめると、「同じ手順の資料が3つある」「『状況に応じて判断』としか書いていない」「詳しい人に聞かないと分からない部分がある」といった状態に気づくことがあります。AIは、渡された文書に書かれていることを手がかりに答えます。そのため、ツールを選ぶ前に、文書の側に何が書かれていて、何が書かれていないかを確かめておく価値があります。この記事は、AI化を進める業務責任者や、総務・情報システムの担当者が、既存の文書を1つずつ点検するための観点と進め方をまとめたものです。
置き場所の整理や、古い版を取り除く作業は、ナレッジ整備の解説でもよく取り上げられています。ここではそこを済ませたあとでも残りやすい、「文書の中身が、AIに使わせられる書き方になっているか」の点検を中心に扱います。特定の製品の推奨や、精度・効果の見込みは書きません。

点検の対象は「置き場所」ではなく「文書が何を語っているか」
文書が整理されていても、AIが使うと困る場面は残ります。たとえば次のようなものです。
- 版の違う2つの文書が、どちらも「現行」と読める
- 手順は書いてあるが、その手順をとる条件が書いていない
- 「原則として」と書いてあるのに、例外のときの扱いがどこにもない
- 判断の理由が書かれておらず、似た場面で応用できない
- 内容が変わったとき、誰が直すのかが決まっていない
人間なら、隣の席の人に聞いて補えます。AIに使わせる場合は、聞いて補う相手がいません。補う代わりに、文書に書き足すか、使わせる範囲から外すか、人に戻すかを、先に決めておく必要があります。
文書を点検する5つの観点
1つの文書につき、次の5つを確かめます。
| 観点 | 文書で確かめること | 書かれていないと起きやすいこと | 先にやること |
|---|---|---|---|
| 1. どれが正か | 版、適用が始まった時期、旧版の扱いが分かるか | 旧い手順と新しい手順の両方を根拠に答えてしまう | 正とする1つを決め、旧版は参照対象から外す |
| 2. 書き方の粒度 | 1つの文書に、方針と手順と注意が混在していないか。用語が揺れていないか | 同じ意味の語を別の内容と受け取る。途中から話題が変わる | 文書を目的ごとに分け、用語を統一する |
| 3. 判断の基準と理由 | 「どういうときに、なぜそうするか」が書かれているか | 似た場面で、理由なく同じ対応を示す | 判断する人に聞き取り、基準と理由を書き足す |
| 4. 例外の扱い | 例外の条件、確認する相手、結果の残し方が書かれているか | 例外の案件でも通常の手順を示してしまう | 例外の条件と渡す先を、文書の中に明記する |
| 5. 更新の持ち主 | 見直す担当者と、見直しのきっかけが決まっているか | 制度や画面が変わっても、文書だけが古いまま残る | 担当者と見直しの契機を、文書に記録する |
観点1と2は、すでに整備を進めている場合、できていることもある部分です。観点3と4は、文書化されないまま担当者の頭の中にあることがあり、見落とされやすい部分です。
曖昧な一文を見つけて、点検の問いに変える
文書の中には、人が読めば分かるが、AIには手がかりにならない言い回しがあります。見つけたら、次のように問いに直します。表の右端の書き足し例は、すべて架空のものです。
| 文書にある一文 | 点検の問い | 書き足す内容の例(架空) |
|---|---|---|
| 状況に応じて判断する | 状況とは何を指すか。判断するのは誰か | 見積の金額が一定の範囲を超える場合は、課長が判断する |
| 原則として、〇〇とする | 原則から外れるのは、どんなときか | 取引先から別の書式の指定があるときは、指定に従う |
| 従来どおり処理する | 従来とは、いつからの運用か。今も同じか | 以前の運用は終了している。現行の手順は別の文書にある |
| 担当者に確認する | どの担当者か。何を伝えて確認するのか | 経理担当に、請求書の番号と相違点を添えて確認する |
| 別紙のとおり | 別紙は最新か。AIに渡す範囲に含めるか | 別紙の改定日を記載し、同じ場所に置く |
| 必要に応じて対応する | 必要かどうかは、何で決まるか | 入力内容に不足があるときに、依頼元へ戻す |
この表に当てはまる一文が多い文書は、書き足すか、人が判断する前提の資料として使わせる範囲を絞るか、先に決めておきます。
点検の進め方(実装手順)
- AIに答えさせたい質問を、いくつか決める。実際に社内で繰り返し聞かれている質問を選びます。文書の山から始めず、質問から始めるほうが、点検の範囲を絞りやすくなります。
- 質問ごとに、答えの根拠になる文書を探す。見つからない場合は、「文書がない」と記録します。担当者の頭の中にある知識として扱います。
- 見つかった文書に、5つの観点を付けて確かめる。「書かれている」「一部だけ」「書かれていない」の3段階で十分です。
- 「一部だけ」「書かれていない」の文書は、対応を選ぶ。直す、書き足す、使わせる範囲から外す、のいずれかです。迷う文書は、いったん外す側に置きます。
- 書き足しは、判断している人に聞いて行う。文書を書く人と、判断している人が違う場合は、判断している人の言葉で残します。
- 更新の持ち主と、見直しのきっかけを決める。制度の変更、画面の変更、担当部署の変更など、文書が古くなる出来事を先に挙げておきます。
文書が何も語っていないとき、AIに何をさせるか
点検をしても、すべての質問に文書が用意できるとは限りません。そのときは、文書に書かれていない質問に対して、AIが答えを推測して返すのではなく、「この文書には書かれていません」と示して、担当者へ戻す扱いにします。戻す相手と、戻すときに添える情報も、あらかじめ決めておきます。
AIに任せる範囲と、人が決める範囲の線引きを現場と合意する進め方は、AI導入に現場が反発するとき、説得の前に決める「業務ごとの線引き」でまとめています。
AIに読ませる準備を進めやすい文書、先に延ばしたほうがよい文書
判断条件の例です。
進めやすい文書:
- 手順や基準が、書いた人以外にも同じように読み取れる
- 更新する担当者が決まっていて、最新の版を示せる
- 例外のときに誰へ戻すかが、文書の中に書かれている
先に延ばしたほうがよい文書:
- 判断の基準が担当者の経験に依存していて、聞き取りの時間が取れない
- 版が複数あり、どれが現行かを示せる人がいない
- 個人情報や機密を含み、AIに渡してよいかを社内で決められていない
個人情報、著作権、機密区分に関わる文書をAIに渡してよいかは、この点検では判断しません。社内の規程を確認したうえで、必要に応じて専門家や所管に相談してください。
うまくいかないパターン
- 文書を集めることが目的になり、どの質問に使わせるのかが決まっていない
- 旧版を残したまま取り込み、現行と旧版の両方を根拠にした回答が出る
- 「担当者に確認」と書かれた箇所を、そのまま放置している
- 書き足した内容を、判断する人に見てもらわず、書く人の推測で埋めている
- 点検は行ったが、更新の持ち主が決まらず、数か月後に再び古くなる
WITHPROJECTSの進め方
WITHPROJECTSでは、業務のAI化を、要件整理、設計、PoC、受入試験、運用改善の工程で進めます。 AIが担う部分と、人が判断する部分を分けて設計することを基本にしています。
どの業務から着手するかはAI業務設計・業務AX、依頼前に社内で整理しておくことはAI導入の見積もりを頼む前に、社内で整理しておく5つのこと、委託先の比較は業務AI化の委託先の選び方もご覧ください。
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