応募書類のAI抽出・要約とは何か、原本と照らす確認の範囲を評価から切り離して決める

目次
履歴書や職務経歴書をAIに読ませて、氏名や在籍期間を取り出したり、経歴を数行にまとめさせたりする使い方が広がっています。便利な一方で、取り出された会社名や年月が原本と違っていても、整った表や文章になっていると、そのまま読み進めてしまいがちです。この記事は、人事責任者・採用担当の方向けに、「項目抽出」と「要約」という言葉の意味を分け、何を取り出し何を取り出さないか、原本とどこまで照らすか、読み取れなかった項目をどう扱うかを、問いと答えの形で整理したものです。
書類を使って候補者を点数づけしたり順位づけしたりすることは、この記事では扱いません。法令上の適否や、特定の製品の精度についても判断しません。個別に判断が必要な点は、社内の法務や専門家、所管の窓口に確認してください。
「項目抽出」と「要約」は、何が違うのか
項目抽出とは、書類に書かれている事実を、あらかじめ決めた項目(氏名、会社名、在籍期間など)の欄に取り出す処理を指します。要約とは、書類全体の内容を、短い文章に書き直す処理を指します。この記事では、応募者から受け取った書類そのものを「原本」、AIが取り出した値を「抽出値」、人が原本と見比べて確かめた値を「確認済みの値」と呼びます。
| 観点 | 項目抽出 | 要約 |
|---|---|---|
| AIがすること | 決めた項目の値を、書類から取り出す | 何を残し何を省くかを選んで、書き直す |
| 起こりうる間違いの例 | 取り違え(別の会社の期間を当てる)、取りこぼし、表記の書き換え | 経歴の省略、言い換えによる意味の変化、書かれていない内容の付け足し |
| 間違いの見つけやすさ | 項目ごとに、原本の該当箇所と見比べられる | 文章全体を原本と読み比べる必要があり、見つけにくい |
| 原本との照らし方 | 値を原本の該当箇所と並べて見る | 要約の各文が原本のどこに当たるかをたどる |
| 向く使い方 | 一覧化、検索、連絡先の整理 | 原本を読む前の見取り図。原本の代わりにはしない |
個人情報保護委員会の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)は、「一般の利用者における留意点」の項で、生成AIサービスの応答結果には不正確な内容が含まれることがあること、出力される文章は確率的な相関関係に基づいて生成されるため不正確な内容の個人情報が含まれるリスクがあることを挙げ、そのリスクを踏まえて適切に判断するよう求めています。この文書は、応募書類の確認手順を定めたものではありません。
抽出する項目は、「取り出す形」で分けて決める
抽出の項目一覧は、項目名だけでなく、どういう形で取り出すかまで決めておきます。取り出す形は、大きく転記、変換、判定に分けられます。形によって間違いの入り方が違うため、原本との照らし方も変わります。
| 取り出す形 | 例 | 間違いが入る場面 | 抽出の段階で任せるか |
|---|---|---|---|
| 転記(書かれたとおりに写す) | 氏名、ふりがな、会社名、学校名、資格名、連絡先 | 似た名前の取り違え、略称や旧字体の書き換え | 任せる。ただし氏名・連絡先・会社名は、原本と見比べる前提にする |
| 変換(表記をそろえる、計算する) | 和暦から西暦への直し、在籍期間の計算、終了が「現在」の書類の扱い | 元号の換算違い、期間の数え違い、「現在」を取り込んだ日で埋めてしまう | 範囲を決めて任せる。変換前の原本の表記も、あわせて残す |
| 判定(内容から区分や有無を決める) | マネジメント経験の有無、職種の区分、条件を満たす経験年数か | 書かれていない経験を「あり」にする、複数の職種を一つに丸める | 抽出の段階では任せない。人が決めるか、評価の設計で別に扱う |
判定まで抽出に含めてしまうと、書類を写す作業が、評価に近い判断に変わります。その場合の公平性の点検は、別の記事で扱っています。この記事では、転記と、範囲を決めた変換までを「抽出」として扱います。
項目の一覧には、項目名、取り出す形、原本の見る場所(たとえば履歴書の学歴・職歴欄)、書かれていないときの出し方の四つを書いておくと、確認する人が迷いません。
抽出しない項目は、どう決めるのか
取り出す項目の一覧と同じ重さで、取り出さない項目も一覧にしておきます。厚生労働省「公正な採用選考の基本」は、応募者の適性・能力に関係のない事項について、応募用紙に記入させたり面接で質問したりして把握しないようにすることが重要だとしています。把握すれば、結果として採否の決定に影響を与えることになり、就職差別につながるおそれがあるためだと説明しています。同じページは、配慮すべき事項として、本籍・出生地、家族に関すること、住宅状況、生活環境・家庭環境に関することと、宗教、支持政党、人生観・生活信条、思想に関することなどを挙げています。
同じページは、個人情報保護の観点からも、職業安定法第5条の5と平成11年告示第141号により、社会的差別の原因となるおそれのある個人情報などの収集は原則として認められないと説明しています。この記事では、告示の原文までは確認していません。
厚生労働省が公表している「新たな履歴書の様式例の作成について」は、厚生労働省履歴書様式例では、性別欄を任意記載欄とし、通勤時間、扶養家族数(配偶者を除く)、配偶者、配偶者の扶養義務の四つの欄を設けないとしています。
これらを、AIの指示文と抽出項目の一覧に、次のように反映する進め方が考えられます。
- 取り出すのは、一覧に載せた項目だけにする。一覧にない事項は、書類に書かれていても取り出さない。
- 一覧に載せない事項(上に挙げた公的資料に出てくる事項など)は、取り出さないこと、要約にも書かないことを、指示文に明記する。
- 応募者が自由記述欄や職務経歴書の中に、一覧にない事項を書いてきたときに、誰へ知らせ、どう扱うかを先に決めておく。
応募者が自分から書いてきた事項を、どう保管し、どう扱うかは、公的資料の記載だけでは決められません。専門家や所管の窓口に相談したうえで、社内の扱いを決めてください。
原本と照らす確認は、何をどこまで行うのか
すべての項目を全件で原本と見比べると、AIに任せる意味が薄れます。かといって確認を省くと、誤りが一覧や要約に紛れ込みます。そこで、間違ったときの影響の大きさで、項目ごとに確認の強さを分けます。
| 確認の強さ | 向く項目の例 | 照らし方 |
|---|---|---|
| 全件で見る | 氏名、連絡先、会社名、在籍期間(間違うと連絡できない、経歴を取り違える) | 抽出値と原本の該当箇所を並べて、担当者が見る |
| 抜き取りで見る | 学校名、資格名、雇用形態など、誤りに気づきやすい項目 | 一部を抜き出して見て、誤りの出方を記録する。誤りが多ければ全件に戻す |
| 読むときに見る | 要約 | 面接官などが読む前に、原本の該当箇所を開く。要約だけで判断しない |
抜き取りの範囲や、誤りが多いと判断する線は、この記事では示しません。自社の書類で試し、誤りの内訳を見て決めるものです。
個人情報保護法第22条は、個人情報取扱事業者は、利用目的の達成に必要な範囲内で、個人データを正確かつ最新の内容に保つとともに、利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努めなければならないとしています。努力義務の形で定められています。個人データとは、個人情報データベース等を構成する個人情報をいうとされており(同法第16条第3項)、応募者の情報を検索できる形で保管している場合などが関係し得ますが、当たるかどうかは個別の判断です。この条文は、原本との照合の方法を定めたものではありません。
確認の強さを下げてよいかを考えるときの判断条件は、次のとおりです。
- 自社の書類(紙のスキャン、手書き、凝ったレイアウトの職務経歴書など)で試し、誤りの種類と出る場所が分かっている。
- 誤りが見つかったときに、誰が原本に戻って直すかが決まっている。
- 確認済みの値と未確認の値を、記録の上で区別できる。
読み取れなかった項目と、解釈が割れる項目は、どう扱うのか
困るのは、読み取れなかったのに、それらしい値が入っている場合です。空欄なら気づけますが、もっともらしい値は気づかれにくいからです。分からないときは分からないと出す、と指示文と出力の形式に決めておきます。
| 状態 | 例 | 出力の扱い | 人が行うこと |
|---|---|---|---|
| 読み取れない | 画像が不鮮明、手書きが判読できない、文字化け、表が崩れて対応関係が不明 | 「読み取れず」と出し、推測で補わない | 原本の該当箇所を直接見て入力する。応募者への確認が必要かも判断する |
| 書かれていない | 資格欄が空、職務内容の記載がない | 「記載なし」と出す | 抽出の取りこぼしでないことを、原本で確かめる |
| 解釈が割れる | 和暦と西暦の混在、終了が「現在」、複数の職歴の期間が重なる、社名変更の前後の表記 | 原本の表記をそのまま示し、候補を並べて決めない | 原本の文脈から人が決め、決めた理由を短く残す |
| 値が複数ある | 連絡先が複数、職種が複数 | すべて並べて出す | どれを使うかを人が決める |
「書かれていない」と「読み取れなかった」は、AIの出力だけでは見分けにくい状態です。空欄の理由を、「記載なし」「読み取れず」「抽出できず」のように分けて出させると、人が原本を見る優先順位を付けやすくなります。
応募者へ確認する場合は、選考に必要な範囲に限ります。職業安定法第5条の5第1項は、求職者等の個人情報を扱う場面について、収集は業務の目的の達成に必要な範囲内で、目的を明らかにして行うこと、保管と使用は収集の目的の範囲内で行うことを、労働者の募集を行う者などに求めています。本人の同意がある場合などは、この限りでないとされています。
AIの抽出値と、人が確認した値は、どう区別するのか
区別しないまま保管すると、後から「この値は誰が確かめたのか」が分からなくなります。値ごとに、次の三つの状態のどれかが分かるようにしておく進め方が考えられます。
- AI抽出・未確認:AIが取り出しただけの状態。面接官への共有や、一覧での絞り込みには使わない。
- 確認済み:人が原本の該当箇所と見比べ、原本のとおりと確かめた状態。確認した人と日付を残す。
- 修正済み:原本と違っていたため、人が直した状態。AIの値と直した値を、保管・削除の決まりに沿って残す。
修正した記録は、誤りが出た項目と、書類の形(スキャン、手書き、画像入りなど)ごとにまとめておくと、項目の定義や指示文を見直す材料になります。直しが続く項目は、AIに取り出させず、人が入力するほうが早い場合もあります。
確認済みの値を、どの置き場の記録として扱うかは、採用管理システムとの関係で決めます。保管や削除の決まりについては、不採用者のデータの扱いをまとめた記事もあわせて参照してください。
外部の生成AIサービスに書類を渡すとき、先に確かめること
個人情報保護委員会の同じ文書は、個人情報取扱事業者が生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合には、特定された利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認することを求めています。また、あらかじめ本人の同意を得ずに個人データを含むプロンプトを入力し、その個人データが応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合には、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があるとして、サービスの提供事業者が個人データを機械学習に利用しないことなどを十分に確認するよう求めています。利用規約やプライバシーポリシーを十分に確認することも、同文書の留意点に含まれます。
個人情報保護法は、利用目的の特定(第17条)、取得に際しての利用目的の通知等(第21条)、安全管理措置(第23条)、委託先の監督(第25条)も定めています。外部のサービスへの入力が、どの条文との関係で整理されるかは個別の判断になるため、専門家や所管の窓口に確認してください。
書類をAIに渡す前の確認事項としては、たとえば次のものが考えられます。
- 渡した書類が、サービス側で学習に使われないか。契約や利用規約のどこで確かめられるか。
- 渡した書類と出力が、どこに、どのくらいの期間残るか。
- 抽出に必要のない情報(たとえば連絡先)を、渡さずに済む工程はないか。
合否や評価とは、どこで切り離すのか
この記事で確認するのは、書類に書いてあることを、正しく写せているか、という一点です。抽出や要約の結果を、点数や順位、合否に直接つなげると、確認する対象が変わります。AIの出力を人が確認する前の候補や下書きとして扱い、確認済みの値だけを次の工程に渡す、という線引きを、先に決めておきます。
導入後に、入力項目や出力の偏りをどう点検するかは採用にAIを使うときの公平性は、導入後どう点検するかに、面接メモを整形させるときの評価項目の決め方は面接メモをAIに整形させる前に決めておくにまとめています。
よくある質問
要約だけ読んで、原本は見なくてよいですか
要約は原本を読むための見取り図であり、原本の代わりとして扱わない、という線引きを提案します。選考の判断に関わる箇所は、原本の該当箇所を開いて確かめます。
AIの値と原本が食い違ったら、どちらを基準にしますか
原本に書かれていることを基準にして、AIの値を直します。ただし、原本の中で期間が重なっているなど、原本自体に判断が必要な点があるときは、人が決め、応募者への確認が要るかも含めて判断します。
確認に手間がかかるなら、AIに任せる意味はありますか
意味があるかどうかは、自社の書類で試した結果によります。この記事では、時間の短縮や精度の数値は示しません。試した結果で、直しが入った項目と、入らなかった項目を見分けると、確認の強さを決める材料になります。
自社の運用に当てはめるとき
WITHPROJECTSの採用AXの公開ページには、採用AXの説明として、採用業務をAI・ルール・システム連携・人の役割に分け直し、運用できる形に設計・実装することを指す、という記載があります。同ページは、情報整理の業務について、応募書類の項目抽出、要約、不足情報の検出をAI・ルールに任せやすいこととし、何を重視するかの基準づくりと最終的な読み取りを人が決めることとして整理しています。また、稼働後の誤りや例外を見て直す運用改善を工程の一つに挙げ、採否そのものをブラックボックスのAIに任せる設計はしないと記載しています。当社は依頼先になり得る立場でもあるため、この節では、自社の公開ページに書いてあること以外は述べません。
採用業務をAI・ルール・人にどう分けるかは採用AXとはに、確認済みの値をどの置き場で扱うかは採用管理システム(ATS)とAIは何が違うかに、不採用者のデータの保管と削除は不採用者の応募者データは、いつ・どこから消すかにまとめています。
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