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SWGs(Sustainable Well-being Goals)とSDGsの現状とエコシステムに関する分析報告Executive Summary

SDGs


本報告は、2015年から2026年8月5日までを対象に、SWGs(Sustainable Well-being Goals)の公式文書、形成過程、国内展開、主要プレイヤー、測定論、学術的位置づけ、国際的受容性、企業実務への接続可能性を検討したものである。
結論を先に示すと、SWGsは、SDGsに代わる国際目標として国連や各国政府が策定した枠組みではなく、日本経済新聞社と電通が主宰する企業コンソーシアム「Well-being Initiative」を中心に形成された、日本発の民間提案である。 2025年10月6日に大阪・関西万博会場で公表されたSWGs宣言は、自らを「SDGsの次なる国際アジェンダ候補」と位置づけているが、2026年8月5日時点で、国連、OECD、EU、G7などによる正式採択、公式審議、制度的支持は本調査では確認できなかった。
SWGsの原型は2021年3月の「日本版Well-being Initiative」設立趣意書にある。同文書は、GDPを補完するGDW(Gross Domestic Well-being、国内総充実)の四半期公表、ウェルビーイング経営の普及、政府・国際機関への政策提言、2030年以降のグローバル・アジェンダへのウェルビーイングの位置づけを目的としていた。したがって、2025年の宣言は突然出現したものではなく、日経、電通、Well-being for Planet Earth、参加企業、有識者が約4年半かけて構築したメディア・企業・専門家ネットワークの成果である。
SWGsは、「人」「社会」「地球」のウェルビーイングを統合し、SDGsの「負の遺産を残さない」から「正の遺産を創り出す」への転換を掲げる。主要構成要素として、GDW、将来世代との対話を意味するFR(Future Generations Relations)、人・社会・自然を結ぶ実践単位としての「流域」を提示している。もっとも、現行の宣言には、SDGsに相当する目標体系、ターゲット、達成期限、統計定義、加盟手続、レビュー機関、資金調達制度、国際交渉プロセスは定められていない。現段階では「Goals」という名称を持つものの、制度設計上は目標体系というより、理念宣言と活動ブランドの中間形態である。
国内では一定の広がりが認められる。宣言時点の賛同企業は18社であり、2026年3月にはSWGsフェスが開催された。2026年5月28日には富山県が自治体として全国初のSWGs宣言を行った。大阪大学、大阪商工会議所、大阪府、近畿経済産業局も、2026年8月28日開催予定の産学共創シンポジウムでSWGsを冠として用いている。ただし、これは政府全体による政策採用を意味しない。内閣府、デジタル庁、環境省などにはウェルビーイング、Beyond GDP、地域幸福度指標に関する独自施策が存在するが、SWGsとの制度的統合は未確認である。
学術的には、SWGsそのものを対象とした査読論文、独立した効果検証、批判的なシステマティックレビューは、本調査では確認できなかった。2025年の専門誌記事と、2026年のウェルビーイング学会系報告書などは存在するが、現時点の知識基盤は、提唱者側の概念文書、実務誌、イベント資料、政策関連資料が中心である。一方、「sustainable well-being」「Beyond GDP」「well-being economy」の学術的蓄積はSWGs以前から存在し、2016年にはSDGsと持続可能なウェルビーイング指標を接続する研究が公表されている。このため、SWGsの概念的独自性は限定的であり、独自性は「和」「流域」「FR」、日経・電通・企業コンソーシアムによる展開方法にあると評価するのが妥当である。
測定面では、GDWを中核指標とする方向性自体には合理性がある。しかし、主観的ウェルビーイングは広義のウェルビーイングの一部であり、所得、健康、能力、安全、環境、社会関係などの客観指標と併用する必要がある。OECDは2024年版の『How’s Life?』で80超の指標を用い、現在のウェルビーイング、格差、将来のウェルビーイングを支える資源を別々に測定している。また、2025年改訂の主観的ウェルビーイング測定ガイドラインは、生活評価、感情、ユーダイモニアを区別し、調査票設計と国際比較の標準化を求めている。現行SWGs宣言は、この水準の統計的仕様を備えていない。
国際比較では、SWGsが進出しようとする領域には、すでにOECD Well-being Framework、国連のBeyond GDP議論、EUのEconomy of Wellbeing、EU共同研究センターのSustainable and Inclusive Wellbeing、ウェールズのWell-being of Future Generations Act、Wellbeing Economy Governmentsなどが存在する。特にウェールズは法律、行政機関の義務、国家指標、将来世代コミッショナーを持つ。SWGsが国際的に採用されるには、理念の訴求だけでなく、既存枠組みとの相互運用性、政府間交渉、統計標準、独立ガバナンス、公開データが必要である。
企業実務への最も現実的な接続方法は、SWGsを独立した新規格にすることではなく、人のウェルビーイングを人的資本・労働安全衛生・AIガバナンス、社会のウェルビーイングを人権・地域社会・顧客成果、地球のウェルビーイングを気候・水・自然資本、将来世代を長期投資・研究開発・シナリオ分析に翻訳し、ISSB、TNFD、ISO 45003、NIST AI RMFなどの既存基準へ接続することである。
以下は、公開情報に基づくSWGsの成熟度に関する本報告独自の評価である。「影響力」は理念の価値ではなく、制度化・検証・普及の到達度を評価した。



起源・主要文書と国内エコシステム
SWGsの制度的起点は2021年3月19日の日本版Well-being Initiative設立にある。設立趣意書によれば、日本経済新聞社がWell-being for Planet Earth、有志企業、有識者・団体と連携して発足させ、事務局は日経が担った。設立時点から、ウェルビーイング経営の拡大、長期的企業価値の評価、四半期GDWの公開、政府への政策提言、Global Well-being Initiativeとの連携によるポストSDGsアジェンダ化が明記されていた。設立時の企業会員には味の素、EY Japan、キリンホールディングス、パーソルホールディングス、富士通、丸井グループ、第一生命グループ、三井不動産、デロイト トーマツ、JT、ロート製薬などが含まれていた。
電通の公式解説によると、この構想はWell-being for Planet Earth側から電通に「日本からポストSDGsのグローバル・アジェンダをつくる」という趣旨の相談が持ち込まれ、電通が日経に協働を呼びかけたことから形成された。電通は議論設計、クリエイティブ、ワークショップ、メディア発信などに関与し、日経グループの媒体を利用した啓発広告や特集番組も展開された。これはSWGsが純粋な学術運動ではなく、メディア、広告、企業経営、研究者ネットワークを統合したアジェンダ形成プロジェクトであることを示す。
2022年には、Well-being Initiative内部に経営委員会、社会指標委員会、シンボリックアクション勉強会が設けられた。社会指標委員会はGDWや国内外のウェルビーイング指標を扱い、経営委員会は企業価値との接続、シンボリックアクション部門は社会的普及を担当する構造である。2024年には企業向けの「日経統合ウェルビーイング調査」が提供され、経営指標への展開が進んだ。
2023年12月14日には、企業が将来世代と対話するFR活動が15社によって開始された。FRはInvestor Relationsに対応する造語であり、株主、従業員、顧客、取引先、地域住民に加え、「将来世代」を企業のステークホルダーとして扱う構想である。発表は日本経済新聞朝刊広告と経営層ミーティングを通じて行われた。
2025年10月6日のSWGs宣言は、こうした活動の集約点である。宣言は大阪・関西万博のテーマウィーク「SDGs+Beyond いのち輝く未来社会」に合わせて、第7回日経Well-beingシンポジウムで公表された。公式には、日本経済新聞社と電通が主宰、Well-being for Planet Earthが企画協力し、Global Wellbeing Initiative、ウェルビーイング学会、東京大学の鈴木寛教授、慶應義塾大学の蟹江憲史研究会などが宣言制作に協力した。
宣言時点の賛同企業は次の18社である。アサヒ飲料、味の素、EY Japan、江崎グリコ、NECソリューションイノベータ、MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス、住友生命保険、東京きらぼしフィナンシャルグループ、TOPPANホールディングス、豊田合成、日清食品ホールディングス、日本航空、日本たばこ産業、パーソルホールディングス、PwCコンサルティング、丸井グループ、三井住友トラストグループ、森永乳業である。
宣言の主要概念は四つに整理できる。



これらは理念として相互に整合するが、国際目標の通常の構成要素である、達成期限、ターゲット、指標メタデータ、基準年、進捗報告制度、国別レビュー、資金メカニズム、紛争解決手続は宣言に含まれていない。したがって、宣言を「ポストSDGsの完成版」と解釈することはできず、ポスト2030議論に投入するための初期的なナラティブと位置づけるべきである。
国内展開の主な経過は次の通りである。


2026年3月のSWGsフェスでは、Beyond GDP、World Happiness Report、GDW、流域、FRが議題となり、外務省幹部、大学研究者、企業関係者、地域実践者が登壇した。これは政策・学術関係者との接点が拡大していることを示す一方、イベント参加や登壇を国や大学による正式支持と同一視することはできない。
自治体展開では、富山県が2026年5月28日に全国初のSWGs宣言を行った。富山県は以前からウェルビーイングを県政の中心に置き、県民調査や独自指標を運用していたため、SWGsは既存政策に新たな名称を与える役割を果たしたと考えられる。富山県以外の自治体による正式なSWGs宣言は、2026年8月5日時点の本調査では未確認である。
中央政府については注意が必要である。内閣府は2019年から「満足度・生活の質に関する調査」を行い、2021年以降は関係府省庁によるウェルビーイング関連の連携を進めている。デジタル庁は地域幸福度指標を自治体向け共通指標として運用し、環境省関係資料の一部にはSWGsという語が登場する。しかし、これらはSWGs宣言を政府の正式目標として採用したことを意味しない。政府のウェルビーイング政策と民間SWGsは、現時点では隣接するが統合されていない複数系統である。
広報・普及構造については、新聞広告、放送番組、シンポジウム、企業ワークショップ、表彰、地域イベントが組み合わされている。Well-being Initiativeの活動履歴には、2023年のカンヌライオンズ受賞、2024年のBSテレビ東京特番、継続的な経営者ミーティングや調査報告会が記録されている。これは高いメディア形成能力を示す一方、概念の評価とプロモーションが同じエコシステム内で行われるため、独立評価を別途設ける必要がある。
測定可能性と学術的評価
SWGs宣言はGDWを「その国におけるウェルビーイングを測る新たな指標」と説明し、経済、精神的・身体的健康、社会的つながり、教育、環境などを考慮するとしている。Well-being Initiativeは、GDPでは把握できない生活上の実感や文化的・社会的多様性を可視化するため、四半期ごとに主観的ウェルビーイングを調査・発表している。
しかし、ここには二つのレベルが混在している。第一は、生活満足度、肯定的感情、意味・目的などを質問紙で測る主観的ウェルビーイング指標である。第二は、健康、所得、教育、環境、社会関係などを統合する社会全体の複合指標である。前者と後者は同じではなく、前者をGDWの代表値として扱う場合と、複数の客観指標を統合する場合では、統計的意味が大きく異なる。
OECDは、主観的ウェルビーイングを「人々が自らの生活をどのように経験し、評価するか」と定義し、生活評価、肯定的・否定的感情、ユーダイモニアを区別している。さらに、主観的ウェルビーイングは所得、健康、知識・技能、安全、環境の質、社会的つながりなどと並ぶ、広義のウェルビーイングの一構成要素にすぎないと明記する。2023年までにOECD加盟国の約90%が代表性のある世帯調査で生活満足度を測定しており、80%超が年次で収集している。SWGsが国際比較を目指すなら、この既存標準との整合が不可欠である。
OECDの『How’s Life? 2024』は、80を超える指標を用いて、現在のウェルビーイング、人口集団間の格差、将来のウェルビーイングを支える自然・人的・社会・経済資源を区別している。この「単一得点にすべてを圧縮しないダッシュボード方式」は、社会的トレードオフや分配問題を見えなくしにくいという利点がある。
複合指標の最大の問題はウェイトである。健康、所得、環境、孤立、教育、将来世代を一つの数字に合成するとき、どの項目を何倍重くするかによって順位や政策優先度が変わる。OECD・欧州委員会共同研究センターの複合指標作成ガイドラインは、概念枠組み、データ選択、欠測処理、標準化、ウェイト、集計、感度分析、外部指標との比較を透明化する必要性を指摘している。ウェイトに唯一の客観解が存在しない以上、GDWは算式だけでなく、価値判断と不確実性を公開しなければならない。
主観的ウェルビーイングの国際比較にも、翻訳、回答尺度の使い方、文化的な自己表現、社会的望ましさ、質問順序、その日の感情、適応、世代差、無回答バイアスなどが影響する。生活満足度の単一質問は簡便で政策利用に適する一方、認知的評価、感情、意味・目的を同じ構成概念として扱えるか、国や文化を越えて測定不変性が成立するかについては継続的な検証が必要である。
さらに、日本国内では「GDW」という名称が複数の主体によって使用されている。デジタル庁の委託事業とスマートシティ・インスティテュートの2025年度地域幸福度調査でも、生活評価を基礎とするGDWが計算されている。同資料自身が、国内のウェルビーイング関連データは分断されており、統合的に活用できる環境になっていないと指摘している。Well-being Initiative版GDWとデジタル庁・SCI-Japan系GDWの定義、質問項目、標本設計、補正方法、利用条件が完全に同一であることは確認できず、同名異義または部分的重複のリスクがある。
GDWを学術的・政策的に利用可能な指標にするためには、最低限、次の要件が必要である。



学術的位置づけについては、SWGsそのものを対象とした研究蓄積は萌芽的である。2025年8月には石川善樹による「SDGsのその先へ 持続的なウェルビーイングを目指すSWGs」が『月刊総務』に掲載されたが、企業実務誌の記事であり、査読済みの実証研究として扱うことはできない。2026年のウェルビーイング関連報告書には「Sustainable Well-being」を時間軸や将来世代との関係から整理する概念論が掲載されているが、これも通常の査読誌における独立検証とは性格が異なる。
一方、持続可能なウェルビーイングそのものは新しい研究課題ではない。Costanzaらは2016年に、SDGsのダッシュボードと接続するSustainable Wellbeing Indexを検討し、主観的指標、客観的指標、統合モデルの可能性を論じた。したがって、「持続可能性とウェルビーイングを統合する」という発想の先行性をSWGsだけに帰属させることはできない。
Beyond GDP研究の近年のレビューも、高品質な代替指標が多数提案されてきた一方で、政策制度や社会的意思決定への組み込みは限定的であると指摘している。測定技術だけでは制度化されず、予算、行政評価、企業開示、選挙、公共調達、金融判断などとの接続が必要だという意味である。
総合すると、SWGsの学術的評価は次のように整理できる。
概念的妥当性は一定程度ある。人、社会、自然、将来世代を統合する考え方は、持続可能性科学、公共政策、ウェルビーイング経済学と整合する。
概念的独自性は限定的である。国際的にはすでにBeyond GDP、Wellbeing Economy、Future Generations、Sustainable Wellbeingの議論が存在する。
測定の成熟度は低~中程度である。四半期調査の実績はあるが、国際標準となるには公開仕様、妥当性検証、独立審査が不足する。
直接的な学術エビデンスは不足している。SWGs導入が政策成果、企業価値、健康、地域持続性、自然再生を改善したという因果推論は、本調査では未確認である。
国際比較と国際的受容性
国際的には、SDGsの進捗不良がポスト2030議論を促す背景になっている。国連事務総長の2025年報告によると、評価可能な137ターゲットのうち、順調または中程度の進捗は35%、進捗不十分は47%、2015年基準から後退したものは18%であった。ただし、国連はSDGsを放棄したのではなく、2030年までの加速を公式方針としている。
2024年9月22日に国連で採択された「未来のための協定」は、2030アジェンダを国際的な持続可能な開発の中心的ロードマップとして再確認し、Global Digital Compactと将来世代に関する宣言を併せて採択した。ポスト2030の論点は形成されつつあるが、現時点でSWGsを後継枠組みとして扱う国連文書は本調査では未確認である。
SWGsと主要な国際・海外枠組みを比較すると、次のようになる。



OECDはSWGsよりはるかに成熟したウェルビーイング統計基盤を持つ。2024年の『How’s Life?』は80超の指標を用い、2025年には主観的ウェルビーイング測定ガイドラインを更新した。SWGsがGDWを国際標準として提案する場合、独自方式を拡大するより、OECDの中核質問、分類、メタデータに準拠し、日本独自の補助指標を追加する方が国際的受容性は高い。
EUは2019年に「Economy of Wellbeing」を政策横断的に取り入れるよう加盟国と欧州委員会に求めた。同概念は、ウェルビーイングを倫理的価値だけでなく、経済成長、生産性、長期的財政持続性、社会安定に不可欠なものと位置づける。これは「ウェルビーイングを企業価値・経済合理性に接続する」というSWGsの志向と近いが、EU側には政策機関、法制、予算、統計、域内調整の基盤がすでに存在する。
ウェールズでは、Well-being of Future Generations Actが公共機関に長期的思考、予防、統合、協働、住民参加を求め、七つの国家目標、国家指標、将来世代コミッショナーを設けている。SWGsのFRは思想的には近いが、将来世代の意見を聞くことと、公共機関に法的義務を課して監督することの間には大きな制度差がある。
Wellbeing Economy Governmentsは2018年に発足し、スコットランド、アイスランド、ニュージーランド、ウェールズ、フィンランドが参加し、カナダも活動に加わっている。ここでは政府同士が政策実務を共有しており、国際普及の経路は民間宣言ではなく、政府の予算・政策・統計運用である。
SWGsの英語版宣言は公開され、Global Wellbeing Initiativeや海外研究者との接点もある。しかし、英語版の存在、外国人研究者のイベント登壇、国際名称の使用は、国際機関による受容を意味しない。2026年8月5日までの国連、OECD、EUの公開資料を対象とした本調査では、SWGsを正式な政策枠組み、統計基準、ポスト2030交渉案として採択・審議・推奨した資料は確認できなかった。したがって、現時点の国際的受容性は理念上の接点はあるが、制度的受容は未成立と評価する。
国際展開を難しくする主な要因は以下である。
第一に、既存枠組みとの重複が大きい。ウェルビーイング、将来世代、自然、Beyond GDPは、すでにOECD、国連、EU、各国政府によって扱われている。新しい名称を採用する国際的な便益が明確でなければ、既存制度がSWGsに置換される合理性はない。
第二に、政府間のスポンサーが存在しない。SDGsは加盟国交渉、国連総会決議、ターゲット交渉、統計委員会の指標策定を経ている。SWGsは現時点で企業コンソーシアムによる提案であり、外務省や国際機関が正式交渉案として提出した事実は未確認である。
第三に、指標体系が標準化されていない。国際目標になるには、各国統計局が同じ方法で測れ、低所得国を含めてデータを収集でき、進捗を比較できなければならない。
第四に、普遍性と文化性の緊張がある。「和」や「流域」は日本発の特徴を与えるが、他地域にとって同じ象徴性を持つとは限らない。国際化には、文化固有の哲学を残しつつ、権利、能力、分配、自然限界など普遍的な政策言語へ翻訳する必要がある。
第五に、ポスト2030の国際政治はウェルビーイングだけで決まらない。債務、気候資金、貧困、戦争、食料、AI、デジタル格差、経済安全保障などの争点があり、「幸福」を上位目標に据えることについて、先進国と途上国で優先順位が一致する保証はない。国連の現行方針も、まず2030アジェンダの達成加速を重視している。
利害関係者マップ
以下の「影響力」は、SWGsの概念形成、資金、普及、制度化に対する相対的影響を、本報告が「非常に高い・高い・中程度・限定的」で評価したものである。資金源について、公開資料で金額や配分が確認できないものは「未確認」とした。



このマップから分かるのは、SWGsの中核が、政府間機関ではなく、日経・電通を中心とする会費制企業コンソーシアムと、財団・研究者・企業のネットワークであることである。会費が存在することは公式プライバシー文書から確認できるが、会費額、企業別拠出、調査費、広告費、イベント収支、知的財産の帰属は公開資料では確認できない。国際的な公共目標を目指すなら、資金構造と意思決定過程の透明性は重要な論点となる。
リスク、批判的論点、将来展望
SWGsの第一のリスクは、ウェルビーイング・ウォッシュである。ウェルビーイングは、生活満足、健康、働きがい、所得、つながり、自由、自然、将来への希望など、多様な意味を含む。そのため、企業が自社に都合のよい活動だけを選び、「SWGsに貢献している」と表現しやすい。現時点では第三者認証、最低基準、違反概念、報告義務が存在しないため、宣言への賛同と実質的成果を区別する仕組みが弱い。
第二は、平均値による格差の不可視化である。国全体のGDWが上昇しても、若年層、低所得者、障害者、非正規労働者、地方居住者などの状態が悪化している可能性がある。OECDが平均だけでなく、格差、剥奪、将来資源を分けて測定するのはこのためである。GDWを単一の国民幸福値として使用すると、分配上の損失が総平均に埋没する。
第三は、主観的適応の問題である。人は不利な環境にも適応し、期待水準を下げることがある。逆に、自由や教育が増えると期待が高まり、主観的満足が一時的に低下することもあり得る。したがって、主観評価が高いことだけを政策成功とみなすべきではなく、人権、所得、健康、安全、環境限界など、主観に還元できない最低条件を併置しなければならない。OECDも主観的ウェルビーイングを広義のウェルビーイングの一要素として位置づけている。
第四は、指標の乱立と名称競合である。内閣府、デジタル庁、富山県、Well-being Initiative、民間調査会社が異なるウェルビーイング指標を運用しており、GDWという名称さえ複数の文脈で使われている。統一仕様がなければ、企業や自治体は都合のよい指標を選び、相互比較や長期追跡が困難になる。
第五は、提唱・販売・評価の一体化である。日経と電通は、概念形成、企業募集、調査、広告、イベント、経営支援、社会発信に広く関与する。アジェンダ形成能力としては強みだが、同じネットワークが成果評価まで担う場合、利益相反や成功事例の選択的発信が生じ得る。科学的信頼性を確保するには、データ監査、手法審査、効果検証を別組織に委ねる必要がある。
第六は、国際規格化力の不足である。SWGsには国際条約、政府間作業部会、統計委員会、法的義務、認定機関、監査基準がない。日本国内の広告、シンポジウム、自治体宣言が増えても、それだけでは欧米や新興国がSWGsという名称を採用する動機にはならない。すでにOECD、EU、ウェールズ、WEGoが同領域で先行しているため、日本独自名称の普及より、既存国際制度への提案内容の埋め込みが現実的である。
第七は、「正の遺産」という表現の曖昧さである。負の影響を減らすSDGsから、正の価値を創出するSWGsへ移るという説明は訴求力がある。しかし、負の削減と正の創出は代替関係ではない。人権侵害、汚染、労働災害などの負の影響を残したまま、教育イベントや地域活動を「正の遺産」として加算することを許せば、ネット・ポジティブ型の相殺論理になり得る。SWGsには、まず侵害回避と最低基準を満たし、その上で追加的価値を評価する階層原則が必要である。
第八は、将来世代の代表性である。FRは有意義な着想だが、企業が選んだ若者との対話だけでは、まだ生まれていない世代や、参加できない集団の利益を代表できない。対話相手の選定、情報提供、謝礼、意見の反映、反対意見の公開、取締役会への報告を標準化しなければ、FRは広報イベントにとどまる可能性がある。
今後の展望は、次の四つのシナリオに整理できる。



最も可能性が高いのは、SWGsという名称が世界統一目標になることではなく、国内でウェルビーイング経営、地域政策、将来世代対話、自然再生を束ねるブランドとして使用されるシナリオである。国際的には、SWGsの構成要素がOECD、国連Beyond GDP、TNFD、人的資本開示、将来世代政策などに吸収され、名称自体は残らない可能性もある。
実務へのインプリケーションと推奨
企業にとって、SWGsを独立した追加報告制度として導入するのは時期尚早である。現状では「SWGs準拠」「SWGs認証」「SWGs達成企業」と称するための公的基準が存在しない。企業は「SWGsの理念を参照した」「SWGs宣言に賛同した」「SWGsの三領域に沿って自主的指標を設定した」と表現し、規格適合を示唆する言葉を避けるべきである。
実装では、SWGsの理念を既存の管理・開示体系に翻訳する必要がある。


ISSBのIFRS S1は、企業に対して、投資家の意思決定に重要なサステナビリティ関連リスクと機会を、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標・目標の枠組みで開示することを求める。SWGsを企業価値へつなぐには、「幸福を大切にする」という説明ではなく、離職、疾病、顧客信頼、自然依存、AI事故、地域関係がキャッシュフロー、資金調達、事業継続へどう影響するかを示す必要がある。
TNFDは、自然への依存、影響、リスク、機会を企業戦略、リスク管理、資本配分、開示へ組み込む。SWGsの「流域」は、事業所・原材料調達先・地域社会・生態系を地理的に接続する点でTNFDと親和性がある。ただし、「流域活動を実施した」という事実ではなく、水量、水質、生物多様性、地域住民への影響、事業依存度、投資効果を測る必要がある。
NIST AI RMFは、AIの設計、開発、導入、利用に伴うリスクを管理し、信頼でき責任あるAIを促進する任意枠組みである。SWGs宣言にはAIやフィジカルAIに関する具体的目標がないため、AIが雇用、健康、安全、自律性、格差、社会的信頼へ及ぼす影響を扱う場合は、SWGsだけでは不十分である。企業はNIST AI RMFなどを用いて、AIの目的、権限、監視、ログ、事故対応、人間への影響を管理し、その成果を「人・社会のウェルビーイング」に接続すべきである。
ISO 45003は、職場の心理社会的リスクを労働安全衛生管理システムに組み込み、労働者の健康障害を予防し、職場のウェルビーイングを促進する。従業員幸福度アンケートだけでなく、業務量、裁量、ハラスメント、役割葛藤、組織変革、雇用不安などの原因を管理する点で、企業の「人のウェルビーイング」の基礎となる。
学術投稿では、SWGsを「SDGsの正式後継」として紹介するのではなく、次のように定義することが推奨される。
SWGsとは、2025年10月に日本の民間企業コンソーシアムが公表した、ポスト2030の国際アジェンダ候補を自称する萌芽的な民間ガバナンス提案であり、人・社会・地球のウェルビーイング、GDW、FR、流域を主要構成要素とする。
この定義により、提唱者側の意図と、現実の制度的地位を分離できる。
学術研究として有効な研究課題は、少なくとも五つある。第一は、SWGs形成過程に関するアクターネットワーク分析であり、日経、電通、財団、企業、有識者、自治体間の資金・言説・権限関係を明らかにする。第二は、GDWの心理測定学的検証であり、信頼性、構成概念妥当性、測定不変性、予測妥当性を検証する。第三は、富山県などの導入地域と非導入地域を比較し、政策・住民意識・予算配分への影響を追跡する。第四は、FRが実際の取締役会判断、投資、製品開発へ与えた影響を事例研究する。第五は、SWGs関連の企業広告・統合報告書を内容分析し、実質的KPIと象徴的表現を区別することである。
政策提言としては、次の措置が必要である。
透明なガバナンス憲章の策定。 主宰者、会員、研究者、自治体、市民、将来世代の権限、資金、利益相反、名称使用条件を公開する。
GDW技術標準の公開。 質問票、標本、算式、ウェイト、コード、改訂履歴、匿名化データを公開し、OECDガイドラインへの対応表を付す。
独立科学委員会の設置。 提唱・広告・コンサルティング主体から独立した統計家、心理測定学者、経済学者、環境科学者、人権専門家が審査する。
最低基準と正の価値の分離。 人権侵害、労災、環境汚染などの負の影響を、寄付や地域活動で相殺できない構造にする。最低基準を満たした後の追加成果のみを「正の遺産」とする。
既存国際標準との相互運用。 OECD、国連Beyond GDP、ISSB、TNFD、ISO、NIST、ウェールズ未来世代法との対応表を作り、独自指標の重複を削減する。
富山・流域での公開パイロット。 行政区ではなく流域単位で、住民、企業、農林水産業、自然状態、災害、健康、所得を統合し、介入前後を公開評価する。
国際展開経路の現実化。 海外向け広告ではなく、OECD統計委員会、国連統計プロセス、G7、WEGo、学会査読誌で方法論を提案し、多国間共同研究を組成する。
企業向けの最終的な実装原則は、次の一文に集約できる。
SWGsを新しいロゴとして導入するのではなく、既存の財務・人的資本・自然・AI・内部統制データを、人・社会・地球・将来世代という長期価値創造モデルに再編する。
この変換ができなければ、SWGsはSDGsと同様に、賛同表明、広告、イベント、報告書上のアイコンへ収斂する可能性が高い。逆に、公開データ、独立検証、企業開示、地域政策、国際統計を結びつけられれば、SWGsという名称が国際標準にならなくても、その構成要素は実務上の価値を持ち得る。

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参考文献
Well-being Initiative(2025)「SWGs宣言―人と社会と地球の調和による、持続可能なウェルビーイングの未来へ」
https://well-being.nikkei.com/news/swgs-declaration_20251006.pdf
Well-being Initiative(2025)“SWGs Declaration”
https://well-being.nikkei.com/news/swgs-declaration_en_20251006.pdf
日本版Well-being Initiative(2021)「日本版Well-being Initiative設立趣意書」
https://well-being.nikkei.com/news/well-being-initiative-prospectus_20210319.pdf
Well-being Initiative「ABOUT」
https://well-being.nikkei.com/about/
Well-being Initiative「活動実績」
https://well-being.nikkei.com/fact/
電通「『いい会社』の定義を考える。Well-being Initiative始動」
https://www.dentsu.co.jp/showcase/well-being.html
住友生命保険(2025)「SWGs宣言に関する公表資料」
https://www.sumitomolife.co.jp/news/news_file/file/251006.pdf
日本版Well-being Initiative(2023)「FR(Future Generations Relations)活動を開始」
https://well-being.nikkei.com/news/future_20231214.pdf
日本経済新聞社(2026)「SWGsフェス2026」
https://events.nikkei.co.jp/80789/
富山県(2026)「富山県SWGs宣言を行いました」
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大阪大学・大阪商工会議所ほか(2026)「第1回SWGs時代を切り拓く産学共創シンポジウム」
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